BASARA短文
□やさしいかげ
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「俺より先に逝くことは許さぬ」
その願いはよくある願いで。
しかし、立場上軽く誓えるものではない。
「あのさ、旦那。何言ってるか分かってんの?俺は忍だよ?俺は旦那を―」
「―佐助!」
俺の言葉を遮って、さっきよりも強い口調でまた名を呼ばれる。
「これは命令であるぞ。俺を守って死ぬとか、そういう…俺のせいで死ぬような事は、絶対に許さぬ」
…旦那は分かってないね。
俺が死ぬときは、旦那のせいじゃなくて、旦那の為なんだよ。
―言い訳みたいだけど、それが忍の運命なんだよ―
「ねぇ、旦那」
自分の命に対し、肯定も否定もせずに会話を続けようとする部下を主は少しふてくされたような顔で見つめる。
「もしも、の話だよ。
もしも俺が、此処より良い条件を出されて、他国に就いてしまって。
そんで、旦那や大将の首を狙うことになったら―――」
旦那はどうする?なんて言い切らないうちから、主の表情はみるみる変わっていく。
「もしも、だって言ったでしょ。そんな顔しないでよ」
先ほどまで随分大人びた真剣な顔をしていたのに、今や主の表情は年相応、寧ろそれ以下の、今にも泣き出しそうな顔に変わっていた。