カラーレスシュガー


□幸せじゃないって言ってよ
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絡み付く、あたしの舌と彼の舌。
なんとも卑猥で、官能的な音に心が震えて、つい彼の背中を強く抱いてしまう。
それに応えるように、彼はあたしを強く抱き締めた。
肩の辺りが熱く火照り締め付けられてゆく度、口腔内が彼色に染まってゆく。

少しずつあたしの背中が床に吸い寄せられるけれど、まだ彼と繋がっている。
床へ到着すると、彼はようやく唇をゆっくり離した。

唾液の橋が、まだあたしたちを繋ぐ。

甘い甘い時間。

彼の澄んだ瞳があたしだけを見つめている。

優しさと熱さを持ち合わせた眼差しは、更なる甘美の世界へ誘うよう。

しかし、時は無情。
ピーと高らかにヤカンが鳴り響き、まるで終了の鐘の音に聞こえた。


『やっべ。ヤカン沸かしてたんだ』


今まで間近にあった彼の身体は、キッチンへ引き寄せられていった。
あたしは身体を起こし、彼の広い背中を見た。
襟で隠れてしまうけれど、背中に近い首の根元には小さなキスマーク。


『はい。ミルクティー好きでしょ』

「うん」


彼はキッチンから戻り、あたしにティーカップを手渡す。
色違いだけれど、お揃いのティーカップ。
これは、あたしと買った物じゃないよ?
無神経だけれど、優しい彼。
思わず口元が緩んでしまう。


『何?思いだし笑い?』

「んーん」

『どっちだよ』


彼は微笑みながら、突っ込んだ。
くるくるとティーカップの中でマドラーを回す。
回すのに満足したのか、彼は一口含むと、アチッと眉をしかめた。
フーフーとコーヒーを冷ますように、息を吹きかけている。
表面に波立つと、ある言葉が不意に浮かんだ。


「ねぇ。幸せ?」

『幸せだよ。こーしてるのが、一番平和で楽』


彼はニコッて笑った。
不安や闇をかき消すような笑顔だった。
彼はフーフーを再開した。

普通の人はまず質問の意図や同じ質問を返すのに、そんな事をしない。
あたしを想って、答えてくれた。


そんな事分かってたのに。


どうせ、あの子の元へ帰るのなら、【幸せじゃない】って、言って欲しかった。

ならば、諦めだってつくのに。
愛しい彼は、無神経で、優しくて、ズルイ人だ。


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