Labyrinth(話)

□6限目:真実
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「坂田銀時…お前の左目を奪った男の名前だよなァ?」


…一瞬時間が止まってしまったかの様に感じたのは、そうなる事を心の底では願っていたからかも知れない
今この瞬間が無かった事になれば良いと、今この一瞬を受け止めたくないと拒絶していたからかも知れない
耳に入ってきた言葉の意味が理解できずに全力で思考を廻らせてみるが、やはりその言葉の意味は浮かんでこない
木の葉を舞わせて静かに風が頬を撫でて通り抜ける、今あった全ての事をそっと吹き去ってくれるかの様に
でも、相手の男の勝ち誇った笑みを高杉のなんとも言えない表情と普段通り付けられた眼帯が全てを物語っていた。


「普通ならお前はあいつを恨んでる筈じゃねェのか?」



男のその言葉に高杉の反論は無い
只歯を食いしばり、垂れ下がった腕の先に力強く震える握り拳が在るだけだ
(本当に、そうなんだな―…)
高杉の表情が、仕草が、雰囲気が…全てが俺にその真実を告げていた

だが俺は高杉の左目を奪った憶えは無い。それどころか転入してくる前に逢った記憶も無い
それはつまり…俺の無くした記憶の、空白の一年間に高杉が存在しているという事だ
当初感じていた懐かしさは当たっていた、でも高杉は俺に『逢った事は無い』といった
それはつまり『俺と逢った事を無かった事にしたい』という事なのだろうか―…


「もう、訳判んねェよ……」



自嘲気味に小さく笑みを零す。
もうこれ以上何も聴きたく無いのに、その場から逃げ出すことも出来ずに膝を抱え顔をうずくめた。








6限目:真実











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