H×B
□限定カラー
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あの人が他人に笑顔を見せるだけで、私の胸は強く握りしめられる。
あんなに優しくて愛らしい笑顔を振りまくものだから、花に、蜜に、蝶が誘われるように、みんな彼女に話しかけていく。
しかも私が傍にいなければ必ず、違う誰かと一緒。
付け加えるなら、毎回違う相手…本人が呼んでる訳でもないのに。
だから一度、質問したことがある。
『…槙先輩、いつも違う誰かが傍にいるのって疲れませんか?』
それは、いつも隣に立つ私が言えた義理ではないけれど。
私なら疲れると思うのだ…綾那以来、誰かに依存していないし…先輩は…
―刃友だし、…大切な人だから一緒にいるだけだし―
私は酷く怪訝そうな顔をしていたのだろうか。
先輩は笑いを溢して、一呼吸おいた後に口を開いてこういった。
『ううん。逆に嬉しいわよ。だって私なんか頼りにしてくれるんだもの』
迷いもなく、ふんわり笑った先輩の、相変わらずの謙遜に、私は苦笑で返して首を横に振った。
『それは、先輩が優しいからです』
『あら、私はね、優しいんじゃなくて、ただ流されてるだけなのよ。空で漂う雲のようにフラリフラリ、ね』
先輩が、そう自嘲気味に笑っても私はその日溜まりのような温かな表情に、惹き付けられるだけだった。