H×B
□もう大丈夫
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「先輩!槙先輩ったらっ」
「え?」
「もうっ、ぼんやりしてたらご飯が冷めますよ」
「あ、ごめんなさい」
朱・氷室ペアとの仕合いで、覚悟していた骨折をいよいよむかえた右手。
元通りにまで完治するまでの時間はまだまだ長い。
考えながら左手でスプーンを握って遊んでいると正面に座っていたゆかりにスプーンを奪われた。
「ゆかりもカレーライスが食べたかったの?」
「ちっ違、違います!」
そう言って既に食事を済ませていたゆかりは隣に腰かける。
「食べるのが大変なら言って下さいよ、手伝いますから…」
ゆかりは早口でそう言うと私の口元にスプーンを運ぶ。
「あー…」
この間の仕合いの負い目か、
それとも考え事に励む私を気遣ったのか、優しい彼女に「違う」と断り辛くて私は素直に彼女に従って口を開いた。
「あーん」
ぱくりとカレーを頬張ると自分で食べていた時よりも格段に美味しく感じるのは私がゆかりを愛しい証拠。幸せの一瞬。
「うん、美味しい!ありがとう」
お礼を言うとゆかりはちょっとはにかんでにこりと微笑んだ。
「ねぇゆかり」
「はい」
「この右手が完治した後に、また右手を怪我したら…」
返事にワクワクと構えているとゆかりは酷く呆れた風なため息を吐いて睨んできた。
「怪我、する気ですか…また誰かの特訓に付き合うとか…!」
「いっいえ!滅相もありません!」
背筋を正すとゆかりは頬杖をついて目を伏せた。