H×B

□水蜜桃に誘われて
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最近、上条槙の周りが地味に騒がしくなりつつあるのは一部では多少に有名な話となっていた。

あるところでは火花を飛ばし、
あるところでは手を結び。

そして渦中の本人は意に介した風なく、休日の美術室に向かうために寮内を一人のほほんと歩いていた、そんなある日。

「えっ?!」

槙の左手が突如何かの力で誰かの部屋に引き寄せられた。

右手はまだ本調子でもなく抵抗出来ない、寮では剣を抜いてはいけない、そんな無防備な状態で槙の体は誰かの腕の中におさまった。

「こんなにすぐ捕まるようなAランク剣待生っているのね」

この声は、と槙がおそるおそるほんのわずかに視線をあげるとメガネのフレームが見えた。

「氷室、さん」

「ちらりと見ただけで誰だかわかるなんて光栄ね」

暝子は言葉に笑みを含めつつ、槙の体を抱き締める手に力を込める。逃さないように、ぎゅっと。

「何してるの」

「あなたが逃げないように捕まえてるの」

「別に、逃げないわ。危害を加えられそうになったら抵抗位はしたいけど」

横目でにらみつけた彼女に暝子は「そう?」と短く反応を返すと、流れるような素早い動作で槙を壁に押し付ける。

「っ!」

左手首を拘束され、右肩を暝子の肩に抑えつけられ、槙は壁に体を軽くぶつける。

その槙の背中を暝子は指でなぞり、首元に唇を寄せた。
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