H×B
□あまい恋は夏の夜に
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夜の闇で眩く光る無数の出店。
耳に聞こえるたくさんの話し声。
色鮮やかな浴衣にカランコロン、という下駄がコンクリートとぶつかる音。
―そして好きな人とお初の夏祭り―
夏祭りのこの日を私がどれだけ楽しみにしてたか、きっと彼女はわからない。
約束をとりつけて2週間、ご機嫌のあまり、玲に「紗枝、お前暑さでおかしくなったのか」なんて頭の無事を確認をされたのも彼女は当然知らない。
「うーん、夏祭りってほんと夏の象徴って感じよねぇ。この雰囲気って好き」
背伸びして後ろをちょこちょこと歩く上条さんに話しかけると彼女は「うん」と笑い返して肯定してくれた。
「良かった」と私はつぶやき、人混みではぐれないように手を繋ぐ。すると上条さんは照れ笑いを浮かべつつ握り返してくる。
「私、はじめて隣町の夏祭りに来たけど盛り上がってるわねー、花火があるにしてもすごい人。上条さんは来たことある?」
「あ、私もはじめてなの」
そう言って上条さんは夜空を仰ぎ見て、のびのびとうれしそうな表情をみせた。
「なんか同じ学園の人と会わないだけで遠くに旅行しに来たみたい」
「ふふ、ほんとー。天地のは学園生がほとんどだものね」
「うん」
「で、友達に会わないから浴衣の恥ずかしさはなくなった?」
にんまりと上条さんに顔を近づけると彼女はがくりと肩を落としてしまった。