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□初恋の思い出
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『今日って私の誕生日なの』
…なんてさりげなく、自分から他人に告げるのは相応に勇気とタイミングがいらうと私は思う。
宮神へ中途半端な時期に転校し、学園生活2年目を迎えたものの、人付き合いへの苦手意識が災いし、まだ学園にもクラスにも馴染めず、ずっと地味側に徹した人間が自己紹介の時だけ伝えた誕生日を覚えてる人は多分、この学園にはいない。
興味がない人間に対する記憶はそういうものなんだと思う。
だからさほど寂しくないけれど、ちょっとだけ人恋しいのも本音。
―ひとりの誕生日、かぁ…―
アパートに帰れば家族からの留守電位は入ってるかもしれない。
でも、誕生日らしいものが何1つなくてそのメッセージを聞くのも悲しくなるし、かといって自分で自分のための誕生日祝いの出費は痛手。
そんな感じに色々考えながら放課後の時間を潰しつつ、人から勉強に逃げた証と化した分厚い眼鏡のレンズ越しから5月の青空を、草の上に仰向けに転がって眺めた。
「うーん、やっぱり寝転ぶと気持ち良いわー…」
お嬢様たちの前だと草や土で制服が乱れるとか汚ないとか、行儀が悪いって言われそうな意識があって人前でやれないけど、庶民な私はこっそりと中庭で寝転んで気分を晴れさせる。
―お嬢様が知らない楽しみを私は知ってるんだもんね―
なんて、一人おかしな優越感に浸っていると、澄みきった青空が人影で遮られた。