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□安全確保
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目が離せない。自分以外によって彼が傷つくのが許せなかった。



学園長先生からの只のおつかいなのに今日は利吉さんが傍にいる。金楽寺の和尚さまに羊羮を届けに行く簡単な仕事。本当は乱太郎君、きり丸君、しんべヱ君に頼もうしていたらしい。けれど彼らは課外授業で学園にいない。白羽の矢が僕に立った。偶々来ていた利吉さんがついていくと言い、断る理由もないのではいと言う。どうして行くのだろうと考えて一つの結論に辿り着いた。山田先生が帰ってくるまでの暇潰し。うん、納得できる。
風呂敷に入った羊羮を持ち、木々の中を歩いていく。頭上に広がる青空、踊る蝶。鳥の囀りが聞こえないのが残念。彼が前を歩くなと腕をひっぱる。いつの間にか彼の数歩前を歩いていた。何で前に出てはならないのですか。いいから従いなさい。前を歩く彼。段々差が開いていく。待って下さい利吉さん!くるりと振り向いて戻ってくる。ごめん、君の足は遅かったね。謝る気持ちなんてないでしょう。まあね。彼が手を掴みゆっくり歩きだす。横に並んだ。握り返すと少し微笑んでいるのが見えた。
利吉さん、お団子屋で休みましょう。長椅子に並んで座る。団子を二人分注文して出されたお茶を飲もうとした。けれど伸ばした手は空振りし、目標物は彼が口にしていた。文句を言いたくても言えない。目が鋭くなり、見たものを震えさせるような表情を見たからだ。彼は静かにお茶を置いて先程の顔とは打って変わって完璧な笑顔を貼りつけていた。この店は美味しくない、他の店に行かないか。尋ねる形式で言いながら、握る手は頷くことしか許さないという意志を表している。拒否は出来なかった。もう少し道を進むとうどん屋があった。窓から良い匂いが漂う。利吉さん、うどん屋で少し休みましょう。暖簾をくぐり、注文をする。美味しそうなうどんを食べようとするとまた先に彼が食べた。また怖い顔するのだろうか。ところが彼は美味いねと言ってうどんを返した。さっきと何が違うのだろう。団子が不味かったからというのは理由にならない。だってあそこではお茶しか飲んでいないのだから。利吉さんはお団子が嫌いなんですか。そんなことはない、よく君と食べたじゃないか。ではどうして前のお団子屋は駄目だったんですか。うどんは嫌かい。うどんも好きです!ほらほら伸びてしまうよ。そういえば僕の器にはまだ残っている。話を逸らされたと気付いたのは食べおわったあとだった。
歩いて歩いて歩いて、突然足に何かがぶつかった。転びそうになったところを彼が受けとめる。ありがとうございます…………っ。足が痛い、少し血がでていた。彼は無言で包帯を取り出す。手早い作業は慣れている証拠。巻き終わると横抱きされた。大丈夫です、僕歩けます。痛むのだろう?これぐらい平気です。嘘をつくな、急ぐから掴まって。言うが早いか風を切る。景色がくるくる変わって、あっという間に金楽寺が見えた。これがプロの忍者。足手まといがいなければもっと速いだろう。金楽寺に着くと和尚さまがあたたかく迎えてくれた。危険はなかったかい。羊羮を届けるだけなのに危険も何もないですよ。和尚さまは僕の隣の彼を見て、ああと頷いた。小松田君、これは羊羮だけじゃないんじゃよ。包みの中から羊羮と手紙が出される。恐らく重要な手紙。きっと狙われると思っていたのだが心配は無かったようじゃな。利吉さん、助けてくれたんですね。……ちょっと外に行ってきます、君は絶対に私が帰ってくるまで外に出ないように。彼はすぐに出ていった。照れ隠しでしょうか。和尚さまは半分はそうだろうとこたえた。ではもう半分は?安全の確保だろう。お茶を飲み終えたころ、利吉さんは鉄の匂いを付けて帰ってきた。



帰り道も横抱きされた。恥ずかしいと言うのに万が一ということがあるからねと降ろしてくれない。鳥の囀りが聞こえる。怖いものが消えたのだろうか。お団子屋は影も形も無くなっていた。

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