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□ツカノアラシさまより
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君を見てると、苛々して酷い事をしたくなると苦笑混じりに利吉さんに唐突に言われて、ぼくは首をきょとん傾げる。何故、急にそんな話になったのだろうかとぼくは不思議に思う。ついさっきまで、利吉さんとしていた会話を思い浮かべたけれど、全く解らない。だいたい、町に新しく茶店が出来たとか、その茶店のお団子がとても美味しいらしいとか、今度行ってみないかとか、他愛のない事を喋っていた筈。入門票にサインを貰うまでの他愛のないお喋り。何一つおかしい所なんてない筈。利吉さんと、こんなお喋りをするのは、最近珍しい事ではなく、利吉さんがいらっしゃる度にこんな話をしている。実際に、お土産を貰ったり、どこかに出掛けたりする事も珍しくなく、怒りっぽいお兄ちゃんが増えたみたい等と密かに思っていたりしていた。
そんな時にそんな事を急に言われて、ぼくは戸惑う。何一つ、いつもと変わった事はしていないのに。
何をそんなに上の空なのと素っ気なく尋ねられて、ぼくはきょとんとした。自分としては、普通にお返事していたと思うのに何がいけなかったのだろうと思う。上の空でしたかと訊ねると、利吉さんは上の空だったよとぼくの頬をつねりながら、責めるように言った。何を考えてたのと重ねるように訊ねられて、ぼくは何でしょうと首を捻ると利吉さんは呆れたような顔をして、ぼくの顔を見下ろしたのだった。
気まずい沈黙。
誰か好きな人でも出来たと利吉さんは漸く沈黙を破ったかと思うと、そんな事を言い出す。ぼくが、滅相もないと言わんばかりに首を左右に振ると、ああそうと利吉さんは余り信じてないような顔をする。だから、何でそんな話になるのだろうか。ぼくに好きな人がいようが、いまいが、利吉さんがそんな事に興味があるとは思えない。
新手の意地悪かしらと、ぼくは少し寂しくなる。何で、寂しくなるのか、理由は全く解らなかったけれども。
何か話題を変えようとぼくが焦りながら、酷い事って何をするのですかとぼくが訊ねると、利吉さんは笑みを深める。何をされるのか知りたいんだと、低い声で言われぼくは何故か背筋がぞくりとした。利吉さんは相変わらず笑みを浮かべたまま。その笑みに思わず、ぼくがこくりと頷くと利吉さんはまた連絡をするからと言ったのだった。
え、今教えてくれないのですかと、ぼくが訊けば、利吉さんは忌々しげな顔になる。今は教えてあげないよと利吉さんは言うとくるりと背を向けて、学園の中に入って行ったのだった。二度と振り返る事もなく。
数日後、ぼく宛ての文が来る。お兄ちゃんからの文で、ぼくにとある所に来て欲しいと書いてあった。何かあったのだろうかと思いながら、午後から休みを貰って、お兄ちゃんの文に書いてあった場所に行く。町中にある宿。お店の取引をする時に、こういう所を使うとお兄ちゃんに聞いていたから、何かお仕事の事なのかしらと思いながら案内された部屋に入る。室内は、何故か真っ暗で何も見えなかった。雨戸も閉めているらしい。ぼくは何か大変な事でも起きたのだろうかと心配になる。
意を決し真っ暗な部屋を恐る恐る動きながら、ぼくがお兄ちゃんと呼ぶと、急に手を掴まれ、その場に押し倒される。背中に感じるのは、布団の感触。何が何だか解らない状況に混乱しながら、じたばたすると頬を叩かれ、耳朶を噛まれる。ぼくが予想外の状況に驚いている内に、見えない誰かはぼくの着ている物を剥ぐように脱がし目隠しをすると、ぼくを犯したのだった。何故、こんな事になったのか、全く解らない。時折、耳に入る低い笑い声にどこか聞き覚えがあるような気がしたけれど、その度にまさかと思い浮かんだ顔を脳裏から消す。経験した事のない悦楽に堪えかねて、許して下さいと泣きじゃくりながら懇願しても、見知らぬ誰かは許してくれず、ぼくが気を失うまで幾度も躯を繋げて、喘がされたのだった。
次の日の朝、明るくなった部屋で自分の隣に昨夜幾度も脳裏からうち消した人がいて、ぼくは小さく悲鳴を上げる。すると、その人は目を開けて不機嫌そうな顔をした。そして、逃げようとするぼくの躯を覆い被さるよに押さえつけると、約束通り、酷い事をしてあげたのに、何て顔をしているんだと利吉さんはぼくに言ったのだった。
酷い事をして欲しいとお願いしたつもりはないのですがと、ぼくは流石に驚く。そして、昨夜誰に何をされたか、思い出しこの場から一目散に逃げたくなるほどに恥ずかしくなる。頬が真っ赤だよと利吉さんが澄ました顔で言う。慌てて、両手で頬を隠すと、昨日身も世もないほどに乱れた癖に今更恥ずかしがるのかと利吉さんは楽しそうにぼくの顔を覗き込む。その途端、頬の温度が更に上がったような気がした。
悪戯にしては質が悪いですよと、ぼくが抗議すると、利吉さんは一瞬凄く怖い顔をする。ぞくりと震える背中。ぼくが、二の句が継げなくなっている事に気がつくと、利吉さんは、そんな事は言わずにまた酷い事をされにおいでと言うとにこりと笑っうと、ぼくの躯の上に躯を沈めてくる。またじゃなくて、今すぐ酷い事をするつもりじゃないですかと言うぼくの言葉は唇を塞がれて音になる事はなく、今日も学園に戻れないかもしれないとぼくは再び利吉さんから与えられる快楽に襲われながら思う。
それにしても、何でこんな事をするのですかと、息も絶え絶えになりながら、利吉さんに訊くと利吉さんは憮然としたような顔をしたのだった。


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就眠儀式(PC)のツカノアラシさんからいただきました!テーマ『酷い利吉さん』の交換です。やったー。
ツカノさんの酷い利吉さん素敵です。小松田さんに気付いてもらえないけれど、そこがまた萌えます^^
ありがとうございました!

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