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□もっともっと大きくなあれ
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小柄な体に大きなお腹。中には幸せが入っているんだよと教えてもらった。



沢山のトイレットペーパーを持った人がふらふらと動いている。右へ左へ壁へ。駆け寄る前にそのまま壁にぶつかってしまった。イタタと顔を上げたのはお腹の大きい事務員さん。小松田さん大丈夫ですか!?大丈夫だよ乱太郎君、よくあることだから。笑って、トイレットペーパーを積み上げる。持ったときには視界が遮られるようになっていた。また小松田さんはふらふらと歩きだす。小松田さん、わたしも手伝います!えっいいの?振り向いた拍子にトイレットペーパーがぼろぼろ落ちた。
前が見える程度にトイレットペーパーを抱える。小松田さんもぎりぎり前が見えるようになったみたいだった。手伝ってくれてありがとう。いえいえ、これも保健委員の仕事ですから。横から見ると前よりもお腹が大きくなっている気がした。重たくないのだろうか。しんべヱのお腹よりもずっと大きい……。ぼくがどうかしたの。わあしんべヱ!ボクもいるよ〜。喜三太!小松田さんのお腹しんべヱのお腹よりも大きいね。当たり前だよ、ママがカメ子を産むときはもっと大きかったよ。新野先生が言うにはこれよりもっと大きくなるんだって。ええっこんなに大きいのに!?喜三太とわたしは驚きで目を見開いてしまった。しんべヱだけは落ち着いている。これより大きくなったら重くて動けなくなっちゃいます!平気だよ、大きくなるってことはこの子が元気な証拠だから。言って小松田さんはお腹を擦ろうとする。当然トイレットペーパーは落ちた。あわわわ。わたしと小松田さんとしんべヱと喜三太で拾う。ぼくたち六年生の教室に行くんですけど、これ持っていきましょうか?助かるよ、ありがとう。いえいえ、妊婦さんは体を大事にしなくちゃ!食満先輩も小松田さんが困ってたら助けなさいって言いましたから!しんべヱたちは六年生トイレ分のトイレットペーパーを両手で抱えて歩いていった。
小松田さんの持つトイレットペーパーは一学年分まで減った。あれから行く先々で生徒に会い、その場所に行くからと持っていってくれたのだ。わたしが言うのもなんだけれど小松田さんはよくドジをする。でも人柄が凄くいいからみんなに好かれているのだと思う。一年生のトイレにトイレットペーパーを置いてお仕事終了。お腹すいたね、おばちゃんに頼んでお蕎麦でも食べようか。はい!食堂に向かって歩きだす。突然小松田さんがあっと立ち止まった。空いた手でお腹を押さえている。今、赤ちゃんが動いた!ええっ!?ほら触ってごらん。恐る恐るお腹に触る。とすんと小さな衝撃。ね、動いてるでしょ。微笑みには優しさが感じられた。優しさだけじゃない、大切な宝物を大事にするような。もっともっとあるはずなのに言葉が出てこない。例えるならそう、お母さんのようなだった。



どうして小松田さんは実家に帰らないんですか?蕎麦を食べながら聞いてみる。優作は妹のことが大層大切みたいだから帰っても嫌がるどころか喜ぶと思うのに。だって学園にいないと利吉さんにおかえりなさいって言えないでしょう?利吉さんは愛されてるなあとしみじみ感じた。

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