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□天気快晴
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彼は僕より早起き。彼は僕より夜更かし。睡眠不足にならないのでしょうか。



目覚めは彼の朝食の合図。今日も彼のほうが早かったなあとぼやける脳で考える。早くしないと冷めてしまうよ。はあい。青いエプロン姿の彼も似合う。あのエプロンは彼の手作りでポケットが大きく使いやすい。僕もオレンジ色の布で作ってもらった。秀、ぼーっとしないで起きろ!利吉さん。なんだい?おはようございます。にへらと笑うと彼は後ろを向いてしまった。心無しか耳が赤い気がする。おはよう、と小さな声。怒っているのではないので安心。でも布団からでないと怒るだろう。寒いのは嫌だけれど痛いのはもっと嫌。一気に掛け布団を退かしてリビングへ急いだ。

湯気のたつ白いご飯、しめじの入ったお味噌汁、二匹の焼いた柳葉魚。全部彼の手作りで味も良い。残念なことは味を楽しむ時間が無いことだ。もっと余裕をもって起きれれば良かったのだけれど、寝坊助はどうしても治らない。夜更かしした次の日は特に……思い出して顔が火照る。爽やかな朝にそんなことを考えちゃ駄目だ。思考を強引に切り替える(お兄ちゃんのことを考えたりとか、今日の降水確率はどのくらいだろうとか)。テレビはちょうど天気予報。お日様マークが散らばっている。洗濯物がよく乾くでしょう。コートだけで大丈夫ですよね。今日は帰り早いんだっけ。はい。じゃあ大丈夫だろう。こういうことは彼に聞いてしまう。何故か安心できるのだ。彼は頭がいいから何でも知っているし、信用できる。加えて、好きだからかもしれない。綺麗な箸使いですよねと言うと、君だって上手じゃないかと褒められた。さあ、そろそろ着替える時間だ。

四時に帰宅。彼に貰った鍵を使ってドアを開ける。洗面所で手洗い、ガラガラうがい。インフルエンザが流行っているので消毒も忘れない。もう洗濯物も乾いたかなあ。取り込んでいる最中に違和感に気付いた。何か足りない。バスタオル、バスマット、タオル、布巾、お揃いのパジャマ、昨日来たシャツ、彼の下着……あれ。僕の下着が無い!?と思ったらリビングに部屋干ししてあった。何で僕のだけ。彼の帰宅は六時。帰ってきたら聞いてみよう。洗濯物を畳みながら心に決める。畳み終わった時間は五時。あと一時間で一人の時間は終わり。何しよう。ああそうだ、料理をしよう。真新しいエプロンを着ける。いつも彼に作ってもらってばかりだから作ってあげたい。彼は喜ぶだろうか。笑みが漏れる。野菜室を漁るとレタス(もしくはキャベツ。まだ見分けがつかない)、クレソンがあった。よーし、これでサラダを作ろう。まな板と野菜を洗う。そして包丁を握った。包丁を使うときは猫の手。はて、猫の手とはどんな形だったろう。爪を出して引っ掻くから、手を広げるのかな。今から切ろうというときに玄関のドアが開く音がした。ただいまと彼の声。包丁をまな板の上に置き、彼の元へ走る。おかえりなさい!どうしてエプロン着けてるの?サラダを作ってたんです!喜んでくれると思ったのだけれど、彼は驚いた様子で僕の手を掴んだ。指は切れてないね。まだ包丁使ってないんです。……間に合って良かった。ほぇ?君はおとなしくテレビでも見てて、続きはやっとくから。彼は鞄を持ったままリビングに入っていった。僕が作ってたのになあ。でも逆らうと怖いので黙っておく。

作りかけだったサラダにはタコと林檎が加わっていた。これを入れることは思いつかなかった。やはり彼は料理上手だ。そういえば利吉さん、僕の下着だけ部屋干しでしたけど、どうしてですか?最近下着泥棒が多いらしくてね、用心しているんだ。じゃあ利吉さんも隠さないと!いや、私は必要ないよ。でも……。大丈夫だから、安心して。にっこり微笑まれると何も言えなくなる。彼が言うなら大丈夫なのだ。ねえ本当に指切ってない?はい、使ってませんから。



下着泥棒は女性の下着を盗むのではないだろうか。彼の腕に抱かれ、気付いた。

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