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□サンタさんはいますか
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朝、彼の兄から私宛てに宅急便がきた。



じんぐるべるじんぐりべるすずがなる。商店街のクリスマスツリーは星が擦れるほど輝いている。BGMは何処に行ってもクリスマスソングだ。子は親に今夜のご馳走は何か尋ね、恋人達は手を絡め合いながら歩いていた(どうせその後ホテルにでも行くのだろう)。買い物袋にはネギや豆腐、肉、野菜。今晩は凡そ『クリスマスのご馳走』とは遠い鍋料理である。クリスマスには洋食なんて誰が決めた。大体、同居の彼は未成年でシャンパンなど飲めやしない。未成年の飲酒駄目絶対。味を占められたら大変だ。炭酸ジュースで十分、ビンに入ったアップルタイザーなら雰囲気だけでも味わえるだろう(鍋に合うかどうかはさておき)。

ドアの鍵を開けようとして、中に光が灯っているのが見えた。まさか、と思ってドアノブを捻るとすんなり開いた。靴を揃えてからリビングに入ると色とりどりの紙の輪。あ、利吉さんメリークリスマス!鋏と折り紙を持ちながらサンタ帽子を被った彼が座っている。ただいま、何をしてるの。飾り付けですよ、ツリーすらないなんて。こないだツリーをねだられたが、あっても邪魔だから買わなかった。外に行けば幾らでも見れるし、豪華さも比較にならない。私は夕飯を作るから、その間に片付けておいてね。はあい。返事だけはいい。キッチンは何も弄られてないようだった。よかった、彼が入ると皿が割れたり、包丁を落としたりと(彼が)無傷ではすまないのだ。買い物袋から野菜を取り出して洗う。じんぐるべるじんぐるべるすずがなる。上手下手よりも楽しんで歌うことが重要なのだろう、彼の少し外れた歌が心地よかった。

コンロの上に鍋を置き、両手合わせていただきます。先に彼の分をよそう。熱いから火傷しないようにね。ありがとうございます。ふぅふぅと冷ます彼が可愛くて手を伸ばしそうになった。いやいや自分少し待て、今は食事中だろう。クリスマスは恋人達の大きなイベントの一つだが、この部屋にはムードの欠片もない。クリスマスらしいものと言えば彼のサンタ帽子。サンタの服を彼が着たら可愛いだろう、これなら買ってもよかった無駄じゃない。利吉さん、冷めちゃいますよ。あ、ああそうだね。彼の言葉で現実に戻った。もう秀は空じゃないか。だって美味しいから。彼がおたまを持とうとするのを取り上げる。君がやったら火傷するよ。これくらい出来ますよ。万が一というのがあるからね。ひょいひょいと白菜多めに盛り付けた。

鍋を片付けて、アップルタイザーを買ったことを思い出し、それとグラスを二つテーブルに置いた。気分だけでもと笑う。すると彼も何か思い出したのか席を立ち、何処に置いていたのか、ショートケーキを持ってきた。ワンホールも買ったの?はい、しかもサンタさん付きです。違う、突っ込みたいところはそこではない。こんな大きなケーキ食べきれないだろう。大丈夫ですよ、サンタさんも食べてくれます。君はまだ信じてるのか!?大変だ、ここに希少生物がいる。私が『馬鹿だな、サンタは実は父親なんだよ』なんて言えば彼の知り合いから非難の視線を浴びるだろう。何より純粋な生き物に現実を教えるのは心が痛い。サンタ存在にはもう触れないことにし、ケーキを切り分ける。余った分は冷蔵庫だ。サンタさん、今年は何くれるかなあ。しまった何も買ってない。フォークから苺がぽろりと落ちた。



彼の兄からの段ボールを開けると星柄の包みと手紙が入っていた。『秀作の枕元に置いて下さい。』明日は休日、怪獣のぬいぐるみでも買ってあげようと思う。

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