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□1.焦がれる2.追いかける3.諦める4.懐かしむ
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07.想う



彼が今何をしているのかなんて考えるのは現実逃避とかそんなものではなくただ時間が空いたからだった。小屋の中で寝付けない夜。任務も滞りなく完了し、日の出を待って依頼人に報告すればよい。それから次の依頼まで日がだいぶ空いてしまう。相手にも時期というものがあるから仕方ないのだけれど。フリーの辛いところ。
彼は間抜けで失敗ばかりの事務員だけれど、定職に就いているから解雇されないのだろう。なんで採用されたのかさっぱり分からないが。あの笑顔と愛想なら受付に向いている。実力だけ見れば門番に向いていない。忍術学園には敵も多いし、門番の役割のほうが強い。今までは間抜けである程度お約束を守っている敵が襲っていたから良かった。でも今後も同じような相手とは限らない。私が事務員に就職すれば彼は安全かな。だが自分が傷つけない自信はない。にこにこの笑みを見るとどうしても手が伸びてしまう。いつもは人当たりの良い顔ができるのに、彼の傍にいると地が出るのだ。だから私にとって天敵であり、近づいてはいけない。牙を向けてしまうのはいつだろう。彼を傷つけるのは本意ではない。
今は布団の中でゆっくり眠っている時間だな。不細工な怪獣を抱き締める彼の姿が目に浮かんだ。白くて細長い脚が寝巻から飛び出しぬいぐるみに絡み付いている。寝相が悪そうだから胸もはだけているだろう。いつもは結んでいる栗色の髪がおろされて広がっている。私の脳内の彼。
会いたい。抱き締めたい。暖かな皮膚の向こうにある心臓の音が聞きたい。
持ち運びができたらどんなに便利か。心臓を動いているまま取出し、枕元に置けば安眠が約束される。とくんとくんとなる音が身近に。
腕でもいいかもしれない。手を絡めれば繋がっている気分になれる。赤い糸よりずっと強固だ。
もし赤い糸が見えたなら真っ先に彼の指を見る。私と繋がっているなら糸でぐるぐる巻いて固く縛る。他に繋がっているなら鋏で切ってしまおう。誰とも結べないように指をちょきんと。残酷だと言うのなら彼の周りの人の指を切ってしまおう。犬も例外ではない。そうしたら彼は痛みなしに私と結ばれるじゃないか。なんとよい考え。



ああ、もう明るくなってしまう。早く彼に会いたい。そうしなければ想いをぶつけてしまいそうだった。






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