Nin

□科学者と父親
1ページ/1ページ


私の息子、山田利吉はとても優秀な子だった。
有名な進学校に通い、奨学生になれるほどの成績を修めた。
教師の親から見て本当に優秀だった。今も優秀だ。

工学部に行きたいと言われたのは彼が18歳になった翌日。
理由聞くと、ロボットを作りたいという夢のある内容だった。

勿論賛成した。本当は法学部や経済学部にいってもらいたかった。
しかしいくら親だからとはいえ、子供に未来を押しつける権利はない。



息子には小さな頃からおかしな趣味があった。
人形遊び。人形を傷つけるわけではない。着せ替えをし、愛でるのだ。

そんなことしてたら彼女ができないぞ、とからかったことがある。それに対し息子は

「彼女なんかいりません」

人形をいとおしそうに見つめていた。


沢山の人形には共通点があった。
どれも栗色の髪をポニーテールにしている。そして皆、和服を着ていた。

こういう人がタイプなのだろうか。
聞けば、首を振られる。


「私はコマツダシュウサクが好きなんです」


名前を口にするだけで嬉しいのか、幸せそうな顔をする。

近所にそんな子供はいなかった。
アニメや漫画のキャラクターか。しかし利吉は観ないし読まない。
ただただ首を傾げることしかできなかった。





利吉は大学を卒業し、研究者になり、とうとうロボットを完成させた。

人形をそのまま人間の大きさにしたアンドロイド。関節は丸いボールのようなものが剥き出しにされていた。

栗色のロングヘアー。和服。
顔も可愛らしい人間の顔だった。

「喋らないのか」
「まだ声が見つからないんです」
悔しげな表情。まだ完成していないと伝わる。



そして利吉は声を探すと言って独り暮らしを始めた。

それから人形がどうなったか、私には分からない。








私の勤め先は小中高と一貫だった。
土井先生と話ながら廊下を歩いていると、慌てて走っていた男子高校生が目の前で転ぶ。


「大丈夫か」


手を差し伸べてやると、生徒は顔をあげる。


「すみません」


栗色の髪は流石に伸ばしてはいないけれど、


顔は息子の作ったアンドロイド瓜二つだった。


「小松田君、廊下は走っちゃ駄目だよ」
「コマツダ……シュウサク……?」
「え、はい、そうですけど」




利吉が28歳のときだった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ