Nin

□三次元の世界へようこそ!
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現実と空想を混同しない!



液晶画面の中で私の彼女が微笑んでいる。私も座布団の上に正座をして笑いかけた。私はオタクではない。頭も壊れてはない。ただ好きな人が二次元にいるだけだ。そう言うと大抵の友人は引き、たまに知らぬ男(その多くが眼鏡で肥満か痩せっぽっち)が頷いている。見た目はいいのに中身は残念なんだな、と言われるがこちらの意見としては私に釣り合う女性がいないのだ。複数の選択肢の中で彼女が喜ぶものを選ぶ。彼女の周りに花が飛散し、顔を赤らめる。とても可愛い。
小松田秀作16さい。愛称は秀。好きな色はオレンジ。ドジっこで特技は人を追い掛けること。一人称はぼく。栗毛のポニーテールが可愛い女の子。
今日も彼女とハッピーエンド。エンディングに白黒の思い出が流れる。そして画面には

『ぼくのこと、好きですか?』

!?

いつもと違う。ここはカラーで忍服の彼女が桜を背景にして微笑んでいるスチルのはず。しかし画面は桜どころか背景は黒しかなく、彼女が少し困っている表情をしていた。隠しルートだろうか。選択肢は『はい』と『いいえ』 しかない。勿論好きなので『はい』を選ぶ。

『あなたの近くにいてもいい?』
『はい』


「ありがとう利吉さん!」


名前を呼んだ!?いや、そんなことは些細なことだ。液晶画面の中央から歪み始め、細い指、腕が出てくる。彼女の可愛い顔が微笑みながら現れ、私に両手を伸ばした。いつの間にうちのテレビは3Dになったのだろう。私はその3Dに押し倒された。柔らかな胸が当たり、これはちょっとラッキーなイベントが起こったのかとゲームのような考えをする。問題点は位置が鼻と口だということだ。


「あわわ、ごめんなさい!」


マシュマロのような感触が離れ、酸素を補給する。
漸く落ち着いて見上げると、小松田秀作によく似た、コスプレ美少女がこちらをにっこり笑っている。


「……誰?」
「小松田秀作です!」





お互い正座で向かい合う。一つしかない座布団は彼女に譲ってやった。くりくり大きな目も薄い眉毛もふわふわしたポニーテールも事務のワッペンが縫い付けてあるグレーの忍服も全て小松田秀作と同じだ。


「利吉さんにやっと触れました!嬉しいです、いつも画面越しでしたから」


本当にゲームから出てきたような少女。テレビ画面は砂嵐ではなく真っ黒。頭が追い付かない。


「あの、大丈夫ですか?もしかして打ち所が悪かったとか!?」


彼女が心配そうに手を伸ばしてくる。

「ちょっと頭が混乱しているだけだよ」

手に触れると温かくて柔らかくて力を入れれば壊れてしまいそうだった。女の子とはこういう生き物なのか。


「小松田さんはテレビから出てきたんだよね」

「はい。ゲームみたいに秀と呼んでください」


彼女は自分がゲームの中の住人だと自覚しているようだった。しかもゲームのエンディング後ぐらいの好感度。
しかしこちらとしては生で会えるとは露ほどにも思っておらず、緊張して仕方ない。初対面のようだ。大体、ゲーム中の行動は彼女に合わせたもので実際は異なる。いつ幻滅されてもおかしくない。


「利吉さんの部屋は南蛮のようですね。見たことがないものがいっぱい。これは鉄でできているんですか?」

彼女はキョロキョロと周りを眺める。ゲームの時代は室町だから、どれも珍しいのだろう。
机を触り、床を触り、室内だと気が付いてくれて足袋を脱いだ。白い生足が眩しい。

「利吉さんは南蛮の服が良く似合いますね」

生笑顔の周りにはキラキラのエフェクトが見えた。もう眼科に通うべきか。あまりにも眩しくてくらりと眩暈。



夢でも醒めないでくれ!祈りながら頬をつねる。勿論彼女は消えず、私に微笑むのだった。

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