Nin

□初恋は実らない
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馬鹿だな、一目惚れなんかして



前の席で親友の食満留三郎が僕の頬を引っ張る。何するんだと抗議したら、悩んでいるようだからと言われた。そこは手を出すより先に口を出したほうが良かったんじゃないだろうか。ちょっぴり頬が痛い。
しかし親友の目は的確で確かに僕は悩んでいた。所謂恋の病ってやつだ。一つ年上の可愛いあの人。ふわふわした茶色の髪の笑顔の可愛い女の子。出会いは保健室だった。僕が保健当番だったときに彼女が来たのだ。よくある膝の怪我。急いで走ってたら転んじゃって、と笑う姿に目が離せなかった。あのときほど治療した新野先生が羨ましかったときはない。スカートからすらっと伸びたあの細い脚に触りたい。変態だって?男なんだから仕方ないだろう。彼女が去ったあとに名簿で名前を知った。小松田秀子。よし、覚えた。
また意識飛ばしてるのか。頬をひっぱられる。会話するときは相手の目を見なさいと学校の先生によく言われたなあ。反省。悩みはなんだと聞かれて、言っていいものか悩んだ。ま、いいよね親友だし。好きな人ができたんだ。なんだって!?親友は目を大きく開けてびっくりしていた。そんなに驚くことだろうか。そりゃあ初恋だけどさ。両肩をガシッと掴まれる。相手は、男か。何言ってるんだ、女の子に決まってるだろう。名前は!小松田秀子さん。すると親友は絶望の表情(ランチに練りものがでたときの土井先生の顔みたいだ)をした。お前はああいう子が好みだったのか、そうだよな……お似合いだよ……くっ。僕の机に顔を伏せられた。え、泣くの、泣いちゃうの。泣くほど応援してくれているのか!なんて素敵な親友!伊作はやっぱり不運だなあ。くすくす笑うのは仙蔵。利吉さんって知ってるか?よく学校にくる山田先生の息子だろう。頭がいい、隣の高校の人。山田先生に似ずイケメンで、隣ではモテモテらしい。利吉さん、小松田さんに気があるらしい。えっ!?父に弁当を届けるためなんてただの口実だ。ええっ!?己と彼を比べる。容姿も年齢も知力も運の良さも相手が上だ。さよなら、僕の初恋……。目を宙に逸らす。なんか涙でてきた。諦めるのはまだ早いぞ伊作!聞いてたのか小平太……。机の上に堂々と座っても怒られないのは人望もしくは諦めだ。まだ勝負はついてないだろう!確かに、付き合っているとは聞いてないな。望みはまだある!なんだか元気がでてきた。ゲージがあったら限界突破ぐらいだ。頑張れ、伊作。いけいけどんどーん!持つべきものは友達。親友の留三郎はまだ感動して、机に伏せている。この恋、実らせてみせる!




僕の知らない場所での会話。
安心しろ食満留三郎、初恋は叶わないんだから。馬鹿野郎、オレだって初恋だ……。

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