Nin

□ふへんのこい
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彼が好きです



目を覚ますと利吉さんの顔があった。じっとこちらを見つめている。その眼差しに僕はドキドキと胸が高鳴ってしまう。

「あ、あの、入門票にサイン下さい」

「もう、書いたよ」

彼の顔が歪められた。ああ、機嫌を損ねてしまった。久しぶりにお会いしたのに。
入門票にはちゃんと山田利吉と記入してあった。いつの間に書いたのだろう。忍者って凄い。

それから布団を片付けて、制服に着替える。すれ違う生徒達に挨拶して、事務室に入った。
僕にでもできるお仕事を貰い、まず書類を片付けた。墨をちょっと零して怒られた。
お昼の鐘が鳴り、食堂に向かう。早く行かなくては美味しいランチがなくなってしまう。
今日のメニューは煮物だった。席に座る。彼と相席でとても嬉しい。お付き合いしてからひと月。ドキドキは治まることをしらない。
綺麗な箸の使い方は山田先生から習ったのだろうか。それともまだ見ぬ母親から教わったのだろうか。

「今日もお仕事失敗したの?」

「えっ」

「頬に墨が付いてる」

くすくす笑われて顔が赤くなる。原因は恥ずかしいのもあるし、彼の笑顔が綺麗だから。
だから、こっちも笑ってしまうのだ。

夕暮れ。箒を持って落ち葉を掃く。
黄色い葉っぱ。赤い葉っぱ。紅葉はいつの間に始まっていたのかな。昨日まで桜が咲いていたような気がしたのに。
こんなに落ち葉が集まったら、焼き芋ができるね。ヘムヘムが嬉しそうに鳴いた。

夕食後、彼と一緒に自室に戻った。枕は二つ、布団も二つ。横に並べて、仲良しさん。

「目を覚ましたらまず一番に見るのが利吉さんになるんですね」

「そうだね」

大好きな利吉さんのお休みなさいで一日が終わって、大好きな利吉さんのおはようから一日が始まる。
それはとても幸せで、夫婦みたいに思えて、凄く嬉しい。
彼も微笑んで、同じ気持ちなのかなと僕も笑う。
布団に入って手を繋ぐ。少し冷たい手が心地よい。

「ねえ、私のことが好き?」

当たり前だ。お兄ちゃんよりも誰よりも好き。一番好き。
好きです、と返事をする。私も、と手に力が込められた。

「お休みなさい」

目を閉じる。今日は朝から利吉さんと会えて良い一日でした。大好きです利吉さん。




目を覚ますと利吉さんの顔があった。じっとこちらを見つめている。その眼差しに僕はドキドキと胸が高鳴ってしまう。

「あ、あの、入門票にサイン下さい」

「もう、書いたよ」

彼の眉間の皺が寄っている。ああ、機嫌を損ねてしまった。久しぶりにお会いしたのに。
入門票にはちゃんと山田利吉と記入してあった。僕がいない間に書いたのだろうか。多分ヘムヘムかな。

それから布団を片付けて、制服に着替える。すれ違う生徒達に挨拶して、事務室に入った。
僕にでもできるお仕事を貰い、まず倉庫を片付けた。手裏剣の手入れの途中でうっかり指を切ってしまった。
お昼の鐘が鳴り、食堂に向かう。早く行かなくては美味しいランチがなくなってしまう。
今日のメニューはうどんだった。席に座る。彼の正面でとても嬉しい。お付き合いしてからひと月。ドキドキは治まることをしらない。
綺麗な箸の使い方は山田先生から習ったのだろうか。それともまだ見ぬ母親から教わったのだろうか。

「今日もお仕事失敗したの?」

「えっ」

「指に怪我をしてる」

心配そうな顔。ちょっとだけ嬉しい。僕のことを思っていることが嬉しい。
それから保健室で、利吉さんに手当てしてもらった。左手の薬指に細い包帯が巻かれた。

「小松田君、昨日は何をしていましたか」

新野先生が人を安心させる笑みで尋ねる。
僕は昨日のことを思い返し、口にした。

「昨日は学園から実家に行ってお兄ちゃんに利吉さんとお付き合いしていると報告しました。けれど、お兄ちゃんは認めてくれなくて、僕は喧嘩して出ていきました。そうしたらドクタケ忍者に遭遇して、石を投げられて落とし穴にはまりました。それから、それから、」

「もういいじゃないですか、新野先生」

利吉さんが遮る。両手でぎゅっと左手を握られた。

「利吉君、このままでいいんですか。何も変わらないままで」

「いいんですよ」

「どうして」

「彼の気持ちが変わることは、決してないでしょう」



彼が好きです。



夕暮れ。箒を持って落ち葉を掃く。
黄色い葉っぱ。赤い葉っぱ。紅葉はいつの間に始まっていたのかな。昨日まで桜が咲いていたような気がしたのに。
こんなに落ち葉が集まったら、焼き芋ができるね。するとヘムヘムが芋を持ってきてくれた。準備がいいなあと感心する。ヘムヘムが悲しそうに鳴いた。
あれ、もしかしてこの芋の用途は別にあるのかな。学園長のものとか。

「出門票をくれないか」

突然背後から声がかかった。振り向くと利吉さんが手を差し出している。
懐から出門票を出す手が躊躇った。少ししか一緒に過ごしてないのに。でも、寂しいけれど、渡さないわけにはいかない。これは僕のお仕事。

「次はいついらっしゃいますか?」

「君が目を覚ましたときに」

にっこり笑いながら、名前をサインする彼。それはどういうことなのだろう。僕が眠っていれば、起きたときに会えるのだろうか。

「ねえ、私のことが好き?」

「そんなの、好きに決まってます」

「……私も好きだよ」

彼が出門票を僕に渡す。受けとると腕を引っ張られた。顎を掴まれ、上を向く。降ってくる口付け。

「それじゃあ、お元気で」

「行ってらっしゃい!」

ぶんぶん手を振った。彼が見えなくなるまで、振った。

それから食事をし、入浴し、布団を敷いて、眠った。
目を開けて、彼が映りますように。



目を覚ますと朝日が眩しい。左手の薬指に包帯が巻かれていた。いつの間に怪我をしたのだろう。
利吉さんもお怪我をなされてないといいな。
暫くお会いしていない大好きな彼を思った。





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