Nin
□夢は夢
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ここはどこだろうか。利吉は目をあけた。
刀が打ち合う音。血の匂い。間違いなく戦場。
そうだ、自分は仕事に来ていたのだ。何故忘れていたのか。
人に刃を向けなくては。心を鬼にしなくては。躊躇いは死。
敵の雑兵がこちらを向く。声を出される前に喉を切った。
いつまで続くのだろう。もう何人も殺した。疲労だって溜まってる。まだ日は落ちない。後何人やれば終わる?
背中で人の叫び声が聞こえた。液体がかかる。
「利吉さん、戦場でぼんやりしてちゃダメですよ」
「……小松田君?どうして君が」
彼はここにいてはいけない。弱い彼は死んでしまう。
早く忍術学園に帰さないと。血の匂いがしない場所に帰さないと。
「利吉さん、僕はプロの忍者になったんです」
憧れの忍者に。
「ぼんやりしちゃダメですってば!」
彼は刃をふる。赤い液体が散る。人が倒れる。
泣き言も言わない。眉もしかめない。ただ、いつもの顔。
死体が山となる。彼は笑う。プロの忍者になったのだと笑う。
「……君は事務員ではないの?」
「僕は忍者です。あなたと同じ」
彼から血の匂いがした。
利吉は目を開けた。秀作の顔が見える。暖かい光。ここは戦場ではない。
思いだした。自分は秀作の膝枕で寝ていたのだ。
「あ、起きましたか?お茶いれますね」
「待って」
秀作の腰を抱く。血の匂いなんてしない。
「君は忍者にむいてない」
また強く抱き締めた。