Nin

□耳が赤かったのを君は見たかい
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ブレザーの群れの中に学ラン一人というのは大変目立つ。


父の勤め先は私が通っている高校の隣の高校だった。だから父が弁当を忘れたとき届けるのは私の役目。

「やあ、利吉君。山田先生は職員室にいるよ」
「ありがとうございます土井先生」

父が弁当を忘れるのは日常茶飯事で、顔と名前はとっくに覚えられていた。黒い学ランが珍しかったのかもしれない。ここの人は私を見ると利吉さんこんにちはと挨拶をする。

職員室では父がお茶で空腹を誤魔化して待っていた。よかった、まだ彼女は来ていない。

「父上、また弁当忘れましたね?」
「おお利吉、待っていた」

待っていたのは弁当でしょうとそれを渡す。勿論母上の伝言も忘れない。当然父の反論を聞く。私が言い返して言い争いになる。私は待っているだけだ、この争いを止める彼女を。

「山田先生ープリント持ってきました〜。
あ、利吉さんこんにちは」
「こんにちは小松田さん」

微笑みながらさりげなくプリントを持ってやる。以前怒鳴って泣かせてしまったからその詫びだ。にぶい彼女が気付くかどうかは分からないけれど。

「山田先生、またお弁当忘れたんですか」

くすくす笑う彼女は争いの空気を簡単に壊した。ポニーテールがふわりと揺れる。触りたい衝動を私は握りこぶしで堪えた。

「小松田さん、昼食はもう済んだかい」
「いいえ、ご飯すらありません」
「だったら一緒に食堂で食べよう」

ぐいと君の手をひっぱる私を君はどう思うのだろう。抵抗せずについてくるのは好かれているのか恐れられているのか。利吉さんと呼ばれて振り向いた。

「今日はAランチがお勧めなんですよ」


君は私の恋心なんて気付かない。いらっとして手をキツく握った。

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