Nin

□手遅れは誰
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気付いたときには既に手遅れ。


忍術学園の門には誰もいなかった。いつもならサインしろとしつこい事務員がいたのに。箒で落ち葉を散らかしてしまう全く役に立たない事務員。ダメダメ事務員。自分とは正反対の彼。
何故自分は立ち止まっているのだろう。彼を待っているのか、馬鹿馬鹿しい。毎回邪魔だったじゃないか。今日は幸運だ。
勝手に門を開けて入っても誰も何も言わないし音もしない。後ろを振り向いても追いかける人はいない。彼が来る前はいつもそうだった。寂しいなんて思うのは間違い。
父に小松田君はどうしたんですかと聞くと父は彼は休暇中だよと言われた。そして父はもう手遅れかもなとニヤニヤ笑う。何が手遅れなのか。彼に危険なことが起こったのかと考えて否定する。そうならばニヤニヤするはずがない。なんだかんだ失敗すると言っても彼は愛されている。
食堂できりまるに追いかけないんですかと言われた。誰をと問えば小松田さんと答えが返る。お見合いのために実家に帰ったと聞いて心が冷えた。彼は次男だから跡取りには関係ないじゃないか。こんなに早く結婚するなんて土井先生が泣くぞ。彼が誰かのものになる。耐えられない。私に向ける笑顔が盗られてしまう。
イライラするけれど同時に愛しかった。悪態をついてしまうのも彼が可愛いから。ああきっとこれは彼の兄の仕業だ。自分の手元に置いておきたいがための計画。
愛しい彼が女の味を覚えないためには先に行動しなくてはならない。何も知らなければ侵すのは簡単。知っていれば侵すのは困難。
門の前で待つ。夕暮れに彼は帰ってきた。結婚はいつするの。震えを隠して言うのは忍の得意分野。彼はキョトンとして、結婚はしませんよと笑う。僕は事務員の仕事がありますからと笑う。腕を伸ばして抱きしめた。君がここに残ってくれて嬉しいと囁く。利吉さんにそんなこと言われるとは思いませんでした。彼は腕をまわしてくれた。



手遅れですよ優作さん。もうすぐ彼は私のものになります。

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