Nin

□作戦は成功
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決して不機嫌にさせてはいけないのです。


箒でゴミを掃いていると、彼が笑顔でこちらに来ました。珍しいことに機嫌が良さそうです。何かいい事でもあったのでしょうか。まあ、どんな理由であれ僕にとってもこれはいい事。快くサインを書いてもらえるからです(悪くても書いてもらうけれど)。

「入門表にサインお願いします」
「第一声はいつもそれだね君は」

機嫌の良かった顔に皺ができてしまいました。マニュアル通りなので仕方ないのです。わかっているはずなのに彼は顔を歪めます。でも仕方ないのです。

仕方ないからと言って何もしないわけにはいきません。何故なら不機嫌になられるのは困ってしまうからです。今日は珍しく学園長が羊羹をくれました(とっても美味しいらしいのだけれど、食べきれないくらい買ってしまった、と言っていました)。美味しく食べるには気持ちも大切です。彼が不機嫌になってはいけません。

機嫌をとるために何をしたらよいのでしょうか。以前、利吉さんは優秀な忍ですね僕も忍者になりたいです、と褒めたのですが皺を深くするだけでした。忍たまにはそう言われると微笑むのに僕には笑いません。何故でしょう……今こんなことを考える暇はありませんでした。早く何か言わないと彼は不機嫌なまま行ってしまいます。

「今日も山田先生ですか」
「そうだよ」

当たり前だ、と顔で示されました。機嫌は右肩下がりです。他に言葉は見つかりません。山田先生の話だったら少しは盛り上がるかなぁと思ったのですが。

もう言えるのはこれだけです。


「利吉さん、おかえりなさい」


利吉さんはピタリと動きを止めました。耳が少し赤いです。

「……ただいま」

もしかして嬉しいのでしょうか。そういえば『おかえりなさい』と彼に言ったのは初めてです。

「もし長くいれるなら一緒に羊羹を食べませんか」
「ああ、いいよ。用事を済ませたら君の部屋に行くから」
「待ってます!」



機嫌取り成功です。だって一緒に羊羹を食べれるのですから(実はこれが目的だったのでした)。

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