Nin
□利益>犠牲
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何をするにも機会費用が必要なんだよ
彼の部屋でゆっくりとお茶を啜る。お菓子は大判の煎餅。
「利吉さん見てください」
彼は私に湯呑みの中を見せた。茶柱がたっている。縁起がいいですねと彼が笑った。
日は明るく、外で忍たま達が遊ぶ声が聞こえる。ここは平和だ。戦場とは大違い。
そういえば外が明るいのなら彼は勤務時間ではないだろうか。
「君、仕事はどうしたの」
「早めに終わりをもらいました」
「そんなに休んでいいのかい、首を切られてしまうよ」
そんなことになったら私のところに来ればいいよ。口にはださない。
「吉野先生がくれたんですよ。利吉さんを待たせてはいけませんって」
君は私のことを待っていなかったの。このお茶も吉野先生に言われたからか。いらっとして彼の頬をぐいーと伸ばした。 痛いと言われてもすぐには離さなかった。
利吉さんを待たせてはいけませんよ…………何か引っ掛かる。まるで私の気持ちを知っているかのような言葉。
彼の頬を解放すると痛い痛いと頬をおさえた。
「ねぇ、吉野先生に私について何か言った?」
「別に言ってませんよ。ただ利吉さん最近よく来られますねって」
「吉野先生はなんて?」
「気の毒に……」
気付かれている。同情までされている。
「何が気の毒何ですか?」
「君は気付かないだろうね」
鈍い彼は腕組みしてうーんうーんと悩む。悩んで悩んで出る答えはきっと的外れ。
「もしかして利吉さんは仕事がないんですか!?」
「あるよ」
ほら的外れ。
「私は売れっ子フリー忍者なんだよ。仕事を断って来たんだ」
「でも、沢山仕事を拒否してしまったら依頼が来なくなっちゃいます。
利吉さんはフリーでしょう。僕みたいに定期的にお給料がもらえるわけではないのに」
「君は事務員でよかったね、失敗しても給料はもらえるし」
フリーだったらまず雇ってもらえないだろう。
「誤魔化さないで教えて下さい!」
「仕方ないな」
耳を貸してと手招きする。手を当てて囁いた。
「この学園に行けば確実に会える人がいてね、とても大切で愛しい人なんだ。その人に会うほうが給料よりもずっと私の利益になるのさ」
彼は口をぽかんとあけていた。私の告白に驚いたのだろうか。
「利吉さん」
「なんだい小松田君」
「利吉さんは父親思いなんですね」
「…………は?」
「山田先生隠れたりしますけど、本当は嬉しいんですよ!」
父上が私の愛しい人!?どうしたらそうなる!
「全然気の毒じゃないです!」
君に言われたくない!
廊下ですれ違った父上に気の毒だと言われた。これから私は気の毒な人ととして認識されるのだろうか。