Nin

□雷鳴
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空に閃光がはしる


外は暗く、音をたてて雨が降っている。明日には水溜まりができているだろう。
闇色の空に光の線が引かれた。そして爆発したような音が鳴る。

利吉さんは急に座っている僕を抱きしめた。まるでしがみつくかのように。
もしかして雷が怖いのですか?言ったら頬をつねられた。

「私は君が怯えると思ったから!」
「ええっ心配してくれるんですか!?あっでも僕なら大丈夫ですよ」

利吉さんはそれでも放さない。抱きしめられるのは嫌ではないので僕も手をまわした。
ピカッとまた空が光る。どんな太鼓よりも大きな音がする。

「障子閉めなよ」
「怖いですか?」
「別に怖くなんかない!」
「じゃあもう少し開けたままでいいですか?僕雷見るの好きなんです」

星よりも明るい光、ゴロゴロと鳴る空はまるで何かの楽器みたいだ。
また雷が落ちた。山のむこう側。

「利吉さん見てください、綺麗ですよ」
「どこが!雷は神が怒っているんだぞ、綺麗より恐怖だろう!」
「……もしかして雷の鬼に臍を食べられるのを信じていた人ですか?」
「もう信じていない!!」
「耳元で怒鳴らないでくださいよー」

利吉さんは信じていたんだ、ちょっと意外。昔は泣いていたのかもしれない。今度山田先生に聞いてみようと思う。

「君は信じていなかったの?」
「信じていましたけど、一回臍出して寝たときに無事だったので」

お兄ちゃんに、あれは嘘だったよ、と伝えた。そうかそうかと言っていたけれど、淋しそうな顔をしていたのは何故だろう。理由は今でも分からない。

「君らしい気付き方だな」

ふふふと笑われる。いつもの余裕が出てきたみたいだ。
そういえば雷がもう鳴っていない。やっぱり利吉さんは雷が怖かったのだ。
意外な一面に笑みが漏れてしまう。

「何笑ってるの」
「別に何でもないです」

利吉さんが雷が嫌いなことを身内以外で知っているのはきっと僕だけ。何だか嬉しい。誰よりも彼のことを知っている気分になる。
でも忍者に怖いものがあったら命取りかもしれない。彼はいつも働いているから仕事中に雷が落ちる可能性もなきにしもあらず。
怖がっている利吉さんは珍しいのだけれどやはり無事でいてほしい。

「雷は悪いばかりではないんですよ。稲妻とも言うでしょう。田に落ちれば稲が例年より実るそうです。農家にとっては素敵な神様からの贈り物なんです」



だから怖くなんてないでしょう?

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