Nin

□本当の願い
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人は欲深く、叶えたいことを沢山持っているとお聞きしていました。私は願い事を書いた短冊を飾られ、祭られておりました。しかし私は彼らの願いを叶えたことはありません。人は欲深いと思ったからです。しかしそれでは忘れられてしまうよと星に警告されました。だから私は叶えられる本当の願いだけ叶えることにしたのです。



学園の校庭には八本の笹があった。赤、青、黄、白、紫、緑……色とりどりの短冊。それぞれに願い事が書いてある。ああ、そういえばもうすぐ七夕。任務の次にまた任務ですっかり忘れてしまった。短冊を見ると願い事は子供らしいものばかり。『おまんじゅうをお腹いっぱい食べたい』とてもしんべヱらしい。『金持ちになる』きり丸は直接すぎる。『可愛いナメクジさんの友達がもっとほしい』ああ、あの子だな。『いつまでもどこまでも雷蔵と共にいたい』………………何も言えない。

「利吉さんも書きませんか」

突然後ろから彼の声。入門票ともに水色の短冊と筆を渡された。サインもお願いしますねと付け足される。これを彼は絶対忘れない。名前をさらさらと書いて短冊に移り筆が止まる。はて、私の願い事は何だったろうか。誰しも願い事は持っているもの。食欲、物欲、性欲……人は欲望を持っている。小さい頃は父上のような立派な忍者になりたいと書いた。今の私はフリーのエリート忍者、願いは叶ったと言える(七夕の力だけではない。私の努力の成果だ)。

「私に願いなんてないよ」

短冊を返そうとすると押し戻される。いいえ絶対あるはずですと筆を握らされた。見つめる目は真剣。こういうのは遊び半分だろうと思うのだが。適当に考えて考えて『金持ちになりたい』と書こうとして筆を止められる。

「適当に書かないで下さい!ちゃんと本当の願いを書いて!」
「本当の願い?」

願いとはなんだ。私に願いはあるのか。あるとすれば愛しい人に会いたいということ。しかし目の前にいるのでこの願いは叶っている。彦星と違って彼に会えるのは一年に一度ではないのだ。毎日は無理だけれども月に2、3回は会っている。目標は一週間に一度だ。願いとはそれだけである。

「願いは決まりましたか?」
「ああ、もう叶っているけどね」

水色の短冊に『愛しい人に会いたい』とさらさら書いた。彼は分かりましたとにこにこと笑う。鈍感な彼がまさか気付いたのかと思ったのだが、では連れてきますねと言うのを聞いてやはり彼は鈍感だと認識させられる。彼はいきなり走りだしてふっと消えた。消えたと思ったらまた向こうから小松田君がやってくる。

「利吉さんも短冊書いたんですか?」
「書いたんですかって、君が強要したんだろう」
「ほぇ、いつですか?ぼくは今日初めて利吉さんに会ったのに」

そうだ入門票にサインして下さい。渡された入門票に私の名前は無かった。ではあの彼は一体誰だ。答など分からない。




彼の願い事は『立派な忍者になりたい』ということだった。ああ、しまった。『小松田君が立派な忍者になりませんように』と短冊に書けば良かった。

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