Nin

□過去拍手
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 夏休みには口実が無い。



 特に部活に入部していない私は夏休みをだらだらと過ごしている。宿題は七月に終わらせた。八月末に焦るのは嫌い。格好悪いし。少数派だと思うのだが早く学校が始まってほしい。そうでなければ彼女に会えないからだ。いつも父の弁当届けを理由に会っていたので休みになってはそれが無い。アドレスも聞いてないので誘えない。ないないづくしでため息がでる。電話が鳴り、父が受話器を取った。少し会話してから保留ボタンを押す。おい利吉。なんでしょう父上。今日は暇か。やることは何もありませんね。そうか。父は保留を解除して通話を再開する。何か私に厄介事でも頼む気だろう。受話器を戻してこちらを向く。利吉、小松田さんの夏休みの宿題を手伝ってやってくれ。住所書いといたからと一枚のメモを渡される。彼女に会えるという喜びが胸いっぱいに広がり、メモを震える手で受け取った。だが顔には出さない。わかりましたと言いながら、頭の中で何を着ていくか考えていた。

彼女の家は一軒家で比較的大きな家だった。インターホンを押すと階段をぱたぱた走って降りる音がした。ドアが開き、彼女が現れる。利吉さんこんにちは!こんにちは小松田さん。彼女は鎖骨が見える小花柄のオレンジのワンピースを着て、長い髪を白いシュシュで上げていた。私服可愛いね!なんて言えるはずがなく、お邪魔しますと普通を装う。二階に上がり扉が開かれると彼女の部屋。ぬいぐるみやテディベア、パステルピンクのクッションなどいかにも女の子の部屋だ。オレンジ色のちゃぶ台がおかれ、卓上に教科書が開いてある。それは数学と書いてあるのでおそらく分からないのはこれだろう。冷茶どうぞ。ああ、ありがとう。座布団に座って飲む。喉に流れる冷たさが気持ちいい。さて、何が分からないの?ええとですね……この確率とか順列が分からないんです。前屈みになる彼女。そのとき胸の谷間がチラリと見えた。私も健全な男子なので反応しないわけがない。……胸元があんなに開いてるのがいけないんだ!何も知らない彼女は私の名前を呼んで上目遣いで見る。伸ばそうとする手を理性で止めた。こんなところでいきなり手を出したら嫌われるに決まっている。欲と戦いながら問題を解き始めた。



今日の利吉さんは何故か険しい顔をしている。頬に汗が伝う。もしかして苦手分野だったのかな。暑さを冷ましてあげようとクーラーの設定温度を1度下げた。
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