Nin

□おててをつないでかえりましょ
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決してストーカーではないと最初に言っておく。



落ち込んでいた僕を乱太郎君達は海に連れていってくれた。海はどこまでも広くて綺麗だ。僕の悩みなんてちっぽけに感じる。泳ぐのも楽しい。魚になった気分がする。水泳は自分でも得意だと思えることだった。小さな頃からお兄ちゃんやタカ丸君にも上手だねって褒められていた。第三協栄丸さんにも素質があると言われた。でも海賊になろうとは思わない。僕がなりたいのは彼のようなかっこいい忍者。素質がないと言われたぐらいで夢は簡単に砕けないのだ。

海から帰り道の途中、しんべヱ君がお腹すいたと足を止めた。この先のお団子屋さんで休もうよー。学園に着けば美味しいおばちゃんのご飯が食べられるよ。学園までもう歩けないよー。ああ目が潤んできてしまっている。摩訶不思議な鼻水が垂れるのも時間の問題。お団子屋さんまで後どのくらい?後10分くらいです!目が輝いている。じゃあそこまで頑張ろう。はい!しんべヱ君は急に元気になって歩きだした。この体力があれば学園まで大丈夫ではないだろうか。三人で溜息。

しんべヱ君を先頭にお団子屋さんまで足を進める。お団子屋さんには先客がいた。あれ珍しい利吉さんだ。しかも何だか怖く感じる。彼は笑顔なのだけれど、後ろに暗い雰囲気を纏っている。笑った長次君とは違う怖さ(長次君の笑顔は正直に言って不気味)。今の彼に近寄りたくない。しかし空腹状態のしんべヱ君は僕の心中なんて知らずに、お団子屋さんへ走って行った。お団子一人前下さーい、あれ利吉さんこんにちは。こんにちはしんべヱ君。乱太郎君、きり丸君も彼に挨拶。僕も怖さを耐えて、こんにちは、と言った。何事も無く終わってほしい。そんな祈りを彼は僕の腕を掴んで願いを儚くさせてしまう。ねえ小松田君、二人きりで話したいことがあるんだけど……いい?疑問文でありながら手は痛いほど力強く、離さない。首を振ったら終わりだが、頷いても終わりの予感。何か理由を付けて断わろう。日が沈まないうちに乱太郎君達を帰さないといけませんから……。彼は乱太郎君達を見る。君たちは小松田君がいなくても帰れるよな。私たちは帰れますけど……。小松田さんは帰れないかもしれないね。彼はさっきよりも笑みを張りつけて、後ろに鬼を背負わせて口を開いた。帰れるよな。はい……と絶望的な返事が聞こえた。

お団子屋さんから足早に引っ張られて連れていかれたのは知らない森の奥。腕はまだ離してくれない。痛い。ねえ、どうして他の男に口吸いをしたの?だって第三協栄丸さんが溺れて水を飲んでしまったから……。しかも襲われそうになってたよね、なんで抵抗しないの?突然のことで驚いて……それで……。彼が怖い。くるりと振り向いた顔は無表情。怖い。怖すぎて目が離せない。腕が解放されていたら逃げていたところだ(成功はしないだろうけれども)。急に彼の顔が近づく。前置きの無い口付け。柔らかい、苦しい、長い、何かぬるりとしたものが入った、苦しい、酸素が足りない、息したい、頭が動かない、体も動かない、彼の手が邪魔をする、苦しい、足の力が抜けてく、苦しい、苦しい。やっと解放されて荒く呼吸。い…きな、り何…するん…ですか。ぎゅうとキツく抱き締められる。君が悪いことをしたからだよ。悪いこと?何かしただろうか。彼とは先程会ったばかりというのに。そういえば他の男に口吸いを許したのかと言われた。もしかするとこれなのだろうか。第三協栄丸さんのは人工呼吸、人命救助です!忍たまにやらせればよかったろう。時間がなかったんです!どうしてこんなに突っ掛かるんだろう。いやそれより何か重要なことを忘れている。どうして利吉さんは僕が第三協栄丸さんを助けたことを知っているんですか?……そんなこと気にしなくてもいいんだよ。また口を塞がれた。



私と彼を呼ぶ声。彼は呼び掛けに答えてしまった。現れるはあの三人組。迷子になってしまったんですと乱太郎。お約束すぎて怒る気など失せてしまう。結局口吸いだけで終わり、学園まで歩いていった。




噂話。最近水軍ではアヒルさんボートを全て新しいものに取り替えたようです。なんでも穴が空いていたとか。
噂話その2。その水軍の船長が鬼を見たと言っているそうです。アヒルさんボートも鬼の仕業だと叫んでいます。誰も本気してないけれど。

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