Nin

□烏
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烏が鳴くのは山に可愛い烏の子がいるからよ。



戦場で血が無いときはなく、争いと平穏の境界線は見えない。例え森に潜んでいても安心は出来ず。迫りくる足音。今回の仕事は調査なのだけれど、血を浴びるのは避けられないようだ。勿論私のではない。六人の武士が正面に現れる。多勢に無勢という言葉はあるけれど、実力の差が歴然なら一人でもやっていける。苦無を持って喉に一線。重い鎧が音を鳴らして落ちる。がしゃん。叫びながら五人の武士が私に襲い掛かってきた。無謀。勝てぬ戦いを挑むのは阿呆、だから弱い。がしゃんがしゃんと音が鳴る。赤い液体が土に沈む。苦しまずに逝かせるのは弱い者への情けだ。かぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁ。烏が餌を求めて地に降りる。かぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁ。増えていく死体荒らし。かぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁ。私もいつか餌になるのか。かぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁ。仕事が終わったら彼に会いにいこう。死ぬわけにはいかないのだ。

かぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁ。塀の上に烏がひぃ、ふぅ、みぃ……いっぱい。落ち葉を集めている僕をじっと見つめる。真っ黒な鳥が塀の青い屋根を埋め尽くす。バサバサバサバサ、翼の音。赤い空に烏。日が沈む前に掃除を終えてしまおう。また吉野先生に怒られる。かぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁ。落ち葉を掃くけれど中々集まらない。三羽烏のほうが掃除上手だ。箒を動かす。葉は舞い上がり、四方へ飛ぶ。溜息。烏はどんどん増えていく。それはもう数えきれないほどに。かぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁ。馬鹿にされているような気分。かぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁ。少し煩い。かぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁ。箒で追い払おうと考えて、留まった。烏は危害を加えられると復讐すると聞いたことがある。幾千の瞳。大きい嘴。あんな凶器にやられたら一溜まりもない。かぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁ。数多の視線。烏か集まると死体ができる。 死体になるのは僕だろうか。かぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁ。鋭い凶器に肉を抉られるのだろうか。かぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁ。足が地面に張り付いたように動かない。食べられる。かぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁ。烏が翼を広げた。かぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁかぁ。小松田君、何そこで立っているの。振り返れば烏髪の彼。ほんの少しの血の香り。入門票と言う前にもう書いたと渡された。烏が僕を食べようとしているんです。追い払えばいいだろう。殺されてしまいます!鳥にも劣るのか君は……。彼は烏の群生を睨む。もうお前達の餌は無い。烏達は一斉に去っていった。



烏が群れると死人がでるんですよ。必死に彼は訴える。しかしそれは順序が逆だ。死体があるからこそ烏は寄ってくる。でもここに死体はありません。あの烏達は阿呆だったんだよ。私が彼を殺すはずなんてないのだから。

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