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□1.焦がれる2.追いかける3.諦める4.懐かしむ
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01.焦がれる
彼はいつも忙しそうに動いている。さすがエリート、さすが優秀な忍者。サインなんかあっという間に書いて一分も僕の前に留まることはない。いや、普通だけどね。みんな名前書いて、はいおしまい。寧ろ書いてもらわないと困る。何処までも追いかけなければいけないし。ただ、ちょっと話せたらいいなあと思うのだ。絵に描いたような憧れの忍者が目の前にいて嬉しくないはずがない。この学園に勤めていなかったら会えなかった。ここにはそれはそれは強い(らしい)忍者の卵や先生がいるけれど、今現在活躍している忍はやっぱり違う。雰囲気も装いもなんとなく忍者みたい。表情もそう。お兄ちゃんのお客様用笑顔と同じ表情をする。さすが忍者。凄い凄い。凄いからこそ小さな通過点である僕には気にも留めない。そもそも父親に会うために来ているのだから通常の行動だろう。
忍たまが羨ましい。あんなにお喋りできるなんて、あんなに関われるなんて。山田先生の生徒だったら僕のことを覚えてくれたかなあ、見てくれたかなあ。嘘の笑顔でいいから話しかけてほしい。日常会話してみたい。
「出門票くれない?」
思考の中心が登場。驚いて素っ頓狂な声がでる。そういえば僕が持っていたんだった。ささっと筆ごと渡して、すぐに返された。そのまま無言で門を潜る一足。何か言わなくちゃ何か。えーと、えっと。
「いってらっしゃい!」
はっと気がつく。ここは彼の家じゃないのだからこの言葉は間違っている!何が正しいのか分からないけど、違うことは分かる。呆れて彼はもう学園の外だ。
あーあ、振り向いてくれたらいいのになあ。
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