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□1.焦がれる2.追いかける3.諦める4.懐かしむ
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03.諦める(利こま←でもしか)



自分を売り込まなければ相手に知ってもらうことはできない。そして受け入れる状況を作ってしまえば完璧だ。わたしは例の役に立たないけれども人に好かれる事務員に手裏剣を指導していた。勿論、率先してだ。手裏剣が反対方向に飛んでも、己に向かっても怒らずに

「まだ上達してないだけだ」

と優しく接していた。でもしか(出茂 鹿之介だと何度も訂正している)が親切にしているなんて!天変地異の前触れか!貴重品をまとめるんだ!と言われても気にしない。

「でもしかさん、ありがとうございます」
「いやいや、いいんだよ。でもしかじゃなくて出茂鹿之介だからな」
「はい、でもしかさん」

だから違うって。間違いはムカつくが疑いもせず笑う姿の背景に花畑が見えてしまう。胸が痛むか?いいや痛まない。わたしは夢の手助けをしているのだ。良いことをしている。そりゃあ、下心もある。就職したいし。でも罠を仕掛けているわけじゃない。

「あ、お客さんだ!」
「ちょっ、待て!」

急に駆け出す事務員。どうして気付くんだ。全く分からない。
門にはわたしと同い年だが何となく気に食わないエリート忍者山田利吉が入門票を待っていた。世の中の勝ち組か。憎い憎い。

「やあ、でもしかもいたの」
「出茂鹿之介だ」

あいつ絶対わかって言ってる。苛々。

「でもしかさんに忍術を教えてもらってるんです」
「出茂鹿之介だ!」

こいつはわかってない。

「君は忍者になれないよ」
「なれます!」
「なれない」
「なります!」
「無理」

事務員は目に涙を溜めて、ぜったいになりますーっ、と駆けていった。泣かせるなんて、いじめっ子か?

「君も諦めたら?」

矛先がこちらに向かった。

「諦めるのはお前だろ」

むっとして睨む。ここは攻めだ。ちょっとでも引いたら負ける。わたしだってできる忍者なんだ。仕事の量はともかく、実力はそう変わらない……はず。

「背後に気を付けて」

背筋がぞくりと冷えた。口は弧を描いているが、目が笑ってない。反論したくらいで怒るとは短気な。性格悪い。




こうなったら絶対にあの事務員を忍者にしてやる。別にあいつの笑顔がみたいとかそんなんじゃないからな!




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