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□10.惚れる
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10.惚れる(女装アイドルパラレル)



バラエティーは見苦しい。芸人達が必死になって自らを貶めているように見えてならない。人間としての尊厳を捨て去っている。
そんな人間に絡まれ、持ち上げられる特別ゲストになんてなりたくなかった。これは宣伝の仕事。仕事は次に繋がる。耐えろ、耐えろ。
バラエティーの内容は、クイズとアクション。アクションといっても、ダンスゲームをしたり射的をしたりするだけ。
私は簡単な問題を答えて、笑顔を振りまけばいい。
後5分で録画開始。深呼吸して仕事モードだ。



視線はカメラ、視線はカメラ。そう心の中で唱えるけれど、ちらちらと隣を見てしまう。
ニューアイドル『シュウ』。今回の番組のペアだ(番組スペシャルらしく、人数が多かった)。ピンクのフリルがたっぷりついた膝上オレンジ色のワンピースをぎゅっと握っている。
仕事とはいえこんな格好をするとは。最近流行りのオカマ芸能人でも目指しているのか。
ふと、女装姿の父親を思い出した。あれは破壊力があった。二度と見たくないのに、父親は気に入ってしまうし、最悪だった。
それに比べてこの子はよく似合っている。メイクも衣装も男らしい堅さを隠して、中性的な少年を表現していた。


「シュウさん、よろしくお願いします」

爽やかオーラを振りまきながら手を差し出す。以前、女優と成り行きで握手をしたときは散々その女優がネットで叩かれたけれど、こいつは男だから問題ないだろう。彼もにっこり笑って手を握った。

「こちらこそ、よろしくお願いします利吉さん!」

なんだ?いつの間に背景が変わったのだろう。彼の後ろに花が咲き乱れている。眩しい、ライトが強すぎる。
目を擦ると、スタジオに戻っていた。まさか視力が落ちたのか?
動悸がする。胸がどくどくと高鳴る。熱が上昇。初めての舞台でもここまで緊張しなかったのに。



「アイドルユニット、紫☆イケメンボーイズの前回のユニット名は!?」
「3TプラスK」
「山田利吉さん正解!」

一応、同じ大川プロダクションの先輩アイドルなんだから知っていないと駄目なんじゃないか?
ちらり、隣を見ると尊敬の目を向けていた。大川プロダクション、教育がなっていない。
この子はやる気があるのか?心拍数も平常に戻ってきていた。

「ごめんなさい、お役に立てなくて」

本当にな。
という本音は隠して笑う。イメージは大事だろう?
彼は目を潤ませて、すまなそうな表情をする。

「アイドルが泣いては駄目だろう」

指で涙を拭ってやる。意外と睫毛が長い。肌も綺麗だ。
そのまま頬を撫でてみたい。そんなことをすればどうなるか。理性は私の手を操り、すぐに離した。

「すみません……」

少し頬を赤らめているのは気のせいだ。そうに違いない。
私も少し顔が暑いけれど、照明が強すぎるからに決まっている。




そう、決して、例の病にかかっているはずがない!





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