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□朝のベッド、待つ、星
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枕元の目覚まし時計が自己主張をするので右手をあげる。バシッと叩いて目を擦る。時刻は六時五十分。勿論朝である。
ベッドから体を起こし、もう一つの音の発信源を見た。昨日消したはずのテレビを彼が正座をしてテレビを見ている。最近、彼はテレビをつけるようになった。彼曰く、相性がいいとのこと。
おはようございます! 利吉さんは何座ですか
『CM後、今日の占い』とテロップが流れた。これに興味を持ったらしい。
彼は星座を理解しているのだろうか。そういう私もそこまで知識もないのだが。
星占いなんてアバウトなもの、信じるに値しない。人類の運勢を十二分割にするほうがおかしいのだ。
しかし、それは星座を教えない理由にはならない。双子座、と素っ気なく答えた。
双子座! 双子座は二位ですよ! 『お仕事は必ず達成できる。好きな人との関係を進展させるには少し離れるといいでしょう。ラッキーアイテムはベッド』です
進展するために離れる。それは無理だ。まず、彼は私に憑いている(多分)。彼岸の日は一緒にいなかったけれど、他は入浴にまでそばにいた。流石に人間の生理現象ときにはドアの向こうで待ってもらっている。
ベッドにいれば利吉さんの幸運が約束されますね!
「ベッドに一日中いたら確実に仕事できないけどね」
何故その矛盾に気付かない。
それにしてもベッドってかっこいいですねえ。僕はずっと布団だったから、憧れちゃいます
「憧れなんて言い過ぎだろう」
実は私も実家が布団派だったからベッドにしたのだけれど、それは黙っておく。
床に足を付け、ベッドに腰を下ろす。好きな人がベッドの近くにいる。しかし、押し倒せない。物理的に無理。
もしかしてあの占いは近付けると手を出してしまうから離れなさいということなのだろうか。無理矢理犯すと嫌われてしまうよと警告。成る程良く考えてある。
ベッドから立ち上がり、タンスから服を選ぶ。彼はテレビに夢中、と装っている。私が肌を晒すときは必ずよそ見をするのだ。別に見てもらいたい姿ではないから不満はないが。
裸の付き合いと同じ釜の飯で仲は自然と深まるものだ。画面の中で役者が言っていた。
そのどちらも、私たちにはできない。彼はできない。じゃあどうやって仲を深める? 仲を深めてはいけないのか?
シャツに腕を通し、釦をかける。黒のパンツを履いて彼に声をかけた。
利吉さんはいつもお洒落ですね。役者さんよりずっとかっこいいです
「……そう」
素っ気ない返事をした。それしかできなかった。だって彼が綺麗に笑いかけるから。沢山の人によく賛美されるけれど、彼は嘘を吐いていないから。私は彼が好きだ。
『十位は魚座のあなた! 停滞していた時が動きます。大切なことを思いだすかも』
「君、何座?」
さあ、分かりません。知らないのかもしれないし、覚えてないのかもしれません。僕の家にはテレビなんてありませんでした
「分からないのに占いを見てるの?」
十二星座のうち一つは僕の星座ですからね
「魚座じゃないといいね」
今日は十位だけど、明日は一位かもしれませんよ
そういう意味で言ったわけではない。ただ、忘れたままでいてほしいだけ。
たかが占い。信じる必要はない。そう心に留めようとするけれど、漠然とした不安が消えることはなかった。
朝のベッド、待つ、星
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