BASARA

□赤いリボンのついた麦わら帽子
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蝉が五月蝿いばかりでカブトムシはいっこうに見つからない。
「カブトムシもないてくれればいいのに」
「どんなふうに鳴くの?」
「ムシムシムシムシ、とか」
それでは鈴虫もムシムシムシムシとなるのか。蟋蟀も真っ青だ。
「なんださすけ」
「いやいや、素晴らしい考えだなあ」
嗚呼蝉が五月蝿い。もうBGMになっている。石を投げつければ少しは黙ってくれるだろうか。
周囲の木々には蝉蝉蝉蝉蝉蝉蝉蝉……あれ。
「幸村ぁいたぞ!!」
「どこでしょうかおやかたさま!!」
お館様に教えてもらい幸村は標的を見つけた。
そろそろと足を前にだす。そっと腕を伸ばして……
「えい!!!」
網の中には人の気配に気付けなかった愚かなカブトムシが捉えられていた。
「おやかたさま、つかまえました!!」
「でかした幸村ぁ!!」
「おやかたさまぁ!!」
「幸村ぁ!!」
「おやかたさまぁ!!」
「幸村、虫かごに入れとくよー」
「おやかたさまぁ!!!」
「聞いてないし……」


もう昼食の時間なので帰ることになった。ていうか帰らないとやばい。熱中症になる危険性もあるだろう。
木が多く生えているおかげで日陰が多いが、暑くないわけではない。
強い風が吹く。枝がバサバサと音をたて揺れる。よく折れないものだ。
「あっ」
幸村の頭から麦わら帽子が離れた。麦わら帽子は持ち主の意志に背くように風に上手く乗り、枝に引っかかった。
「さすけ、これを持っていてくれ」
幸村は凸凹した木に上手に足を掛け、軽やかとはいえないけれども着々と麦わら帽子の枝に近づいていった。
枝の先に赤いリボンのついた麦わら帽子が引っかかっている。まだ幼い幸村の手では後少しというところで届かなかった。
「ん……あとちょっと」
「幸、無茶しないで」
「うー……とれた!!……わっ」
幸村は帽子が取れた安心でバランスを崩した。体が胴の部分から落ちる。
「「幸村!!」」
信玄と左助は幸村の落下予測地点に走った。普通の人間なら間に合わない。普通だったら。
左助は人間とは思えぬ速さで落下予測地点に着き、腕を伸ばした。
幸村が左助の懐に収まる。左助は体重を受け止めきれず、幸村を抱いたまましゃがみ、尻餅を着いてしまった。
「無茶するなって言っただろ!!」
「うう……すまぬ」
「怪我はないか幸村?」
「はい、ちっともいたくありません!!」
「もうっ今度から気をつけてよ〜」
左助はよいしょと立ち上がろうとした。
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