BASARA

□君におにぎりをあげる
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「犬千代さまー!」
「まつー!」

どこかの妻は手作り弁当を夫に渡した。
美味しそうに男はほうばっていた。


今日のおやつはおはぎだった。左助の手作りはとても美味しい。
忍は戦でも料理でも何でも出来てしまうのだ。
幸村の一般の忍像が間違っていることに突っ込む人は誰もいない。

「左助、左助はいるか」
「何旦那ー」

左助はすっと幸村の前に降り立った。
忍の脚で一気に走ったのか、それとも気配を消して側にいたのか幸村には分からない。

「俺に料理を教えてくれないか?」
「え、旦那が料理するの?」
「お弁当を作りたいのだ」
「他の人に作ってもらえばいいじゃない」

幸村が作ると大変なことになる気がする。鍋が火を噴く可能性も無きにしもあらず。

「俺が作らなくては意味がないんだ」

真田幸村は一度決めたら変えることはまずない。
きっとこの弁当は誰かにあげるのだろう。そうでなければこんなことは言わない。
こんなふうに想われる誰かが羨ましい。
左助は息を吐いた。

「じゃあ、簡単なものだけね」


ドーンと音がし、火花があがる。気のせいではない焦げた臭い。

「す、すまぬ左助……」
「どうしておにぎりで爆発するの!?」

簡単な料理とはおにぎりである。
なるべく火も包丁も使ってもらいたくなかったので、ご飯は左助が炊いた。
後は握るだけだったはずなのに。
おにぎりは火を噴き、炭となって最早食べ物というには食べ物に失礼な状態になってしまった。

「焼いたら美味しそうだと思ったんだ」
「これじゃ只の炭だろ!誰が千両花火をやれと言った!」
「いや、千両花火じゃない。火炎車だ」
「変わらないから!」


左助は炭を片付け、辛うじて残っていたご飯を出した。
実はそれは夕飯の分である。また炊き直さなくてはいけない。

「いい?勝手なことしないでね?」
「ああ!」

返事だけは気持ちがいい。行動が伴っていれば更にいい。

「いい?もう一度言うけど、ご飯は優しく握るんだよ」
「よし、こうだな」
「力強すぎ!それじゃあ固くなるでしょ」
「しかしちゃんと握らないと崩れるんじゃないか?」
「加減するんだよ」

左助が見本としておにぎりを一つ作る。
30秒たらずで綺麗な三角形ができた。

「わかった?」
「うむ、美味そうだ」

幸村もご飯に具を入れておにぎりを握った。
強すぎず、弱すぎず、加減して力をいれる。
次第に形が出来上がっていき、立派なおにぎりができた。

「できたぞ左助!」
「旦那にしては上手くできたね」
「では次の料理を教えてくれ」
「えっまだ作るの!?」
「これでは弁当にならぬだろう?」

確かに弁当は他にもおかずが必要だ。
しかし幸村が火や包丁を使った結果は火を見るより明らかである。
左助は考えに考えて幸村に告げた。

「旦那、おむすびころりんって覚えてる?」
「昔話だろう?お爺さんが穴におにぎりを落としてしまう」
「そうそう。さて、お爺さんのお弁当は?」
「おにぎり二つ……」
「だからこのおにぎりでお弁当の完成!」
「そうなのか!」

納得してもらえた。

「では左助、これを食べてくれ!」
「味見は自分でやらなくちゃ駄目だろ」
「味見ではない。これはお前のだ」

幸村は左助を正面から見つめ、「はい」とおにぎりを左助の前に出した。

「いつも世話になっているからな。ほら、食べてくれ」
「旦那……」

左助は目が潤みそうになったが、ここは忍。流しはしない。
おにぎりの一つを手に取り、一口食べた。
ご飯と甘い餡が見事なハーモニーを醸し出す、そうこれはまるで。

「おはぎの味がする」
「梅干しより餡のほうが美味いと思ったのだ」

それならば普通におはぎをたべたほうがよいのではないだろうか。
「美味いだろう?」
「ありがとう」

けして美味いとは言えない。
ただ、自分のことを想ってくれたことが嬉しい。
左助は甘いおにぎりをもう一口食べた。

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