BASARA
□君とデート
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食事は中華料理。メニューはドリンクだけだった。
左助は前から予約をしていたらしい。コースを2人分頼んでいた。だから食事のメニューがないのか。
「飲み物は何にする?」
何と言っても未成年の自分には、居酒屋では選べるものも少ない。
「グレープフルーツかジンジャエール」
「グレープフルーツにしたら?」
「そうする」
アルコールのメニューも見ておいた。二十歳になったら左助と飲んでみたい。
ウェイターが来て、左助は梅酒とグレープフルーツジュースを注文した。
間をおいてご飯が運ばれ、どうでもいい会話を楽しむ。どの料理も美味しく、飲み物が進んだ。
「このご飯変わってる。何が入ってんだろう」
「何が入ってると思います?」
食事を運んできた、人の良さそうなウェイターはにこにこと笑って、麻婆豆腐を取りに行く。料理熱心な左助はご飯を口に含み、うーんと唸っていた。
ご飯は少し甘酸っぱく、良い香りがした。
運ばれてきた麻婆豆腐は山椒でとても辛く美味しい。ご飯ともよく合う。
「左助、今度家で作ってくれないか?」
「無理無理。きっとこの山椒、本場中国のやつだよ」
こんなに美味しいのに無理だとは残念だ。
「わかりました?」
食器を下げに来たウェイターが笑顔で尋ねる。
「黒酢が入ってる?」
「違うんです。これ、桜酢なんです」
ウェイターはしてやったりな顔をする。
「桜を酢につけて、絞ったものなんですよ」
「へぇ、桜酢なんて初めて聞いた」
「麻婆豆腐とよく合うんです」
そう言うウェイターの顔はとても誇らしげで嬉しそうだった。
満席になった居酒屋は静まることがないように思えた。2人しかいないウェイターは忙しく動いている。
デザートを運んできたウェイターは前とは違う人だった。少し髭があって、さっきの人と比べてワイルドな雰囲気だ。
「麻婆豆腐とても美味しかったです」
「でしょう?うちの看板メニューなんです。
もうすぐしたら簡単には食べれなくなりますよ」
嬉しそうなウェイター。俺はこの表情を、この気持ちを知っている。
左助の料理は美味しい。誉めすぎだと言われるが店もだせると思う。
誰かが左助の料理を誉めたとき、俺まで嬉しくなり、誇らしくなった。
シェフはどんな人なのだろう。忙しくて顔を見せる暇はないと思うが。
「左助のような人だろうか」
「何が?」
「いや、なんでもない」
夜の外は店の光に満ち溢れていた。びゅうっと強い風が吹く。
「寒いな」
鞄からコートを取り出した。入る前はまだ暖かかったのに。
「お待たせ〜」
「ちょっ左助!」
「だって寒いんだもん」
会計が終わった左助は、何と後ろから俺に抱きついてきた。触れられるまで全然気付かなかった。
「旦那はあったかいねぇ」
「破廉恥だっ」
「旦那も寒かったんだからいいでしょ」
確かに少し寒かったし、左助がついてちょっと暖かくなったが、しかし!けれども!
「こんなところ誰かに見られたらどうするんだ」
「見せつければ良くない?」
「良くない!」
どうしよう。どうしたらいいんだ。あれは恥ずかしいが仕方ない。背に腹は変えられない。
「左助ぇ!」
「何?」
「て、手を繋いで行こう」
恥ずかしい。破廉恥だ。でも小さい頃よくしたじゃないか。今日は特別だ。
左助は俺の右手の指を絡めてにまっと笑った。
「破廉恥じゃないの?」
「今日は寒いから」
左助の手はひんやりしている。けれど離したくはなかった。