BASARA
□君とデート
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「まさか最上階だなんて」
広い部屋にしておきましたと言われて渡された鍵は2230。最上階。
6台あるエレベーターはすぐに開いて、あっという間に上っていった。
角を曲がり、角を曲がり、真っ直ぐ進む。
2230号室は隅にあり、キーを差し込み鍵を開けた。
「広っ」
大きなベッドが2人分。インターネットができる机。ソファー。
洗面所からガラスで区切られた大理石のバスルーム。シャワー室もついている。
ただ残念なことは大阪城が見えないことだが、それを差し引いても良い部屋だ。
「洗面所から風呂場って丸見えなんだ」
「左助っ」
もしや、いかがわしい考えがばれたのだろうか。聞こえない筈なのだが。
平静を保ち、声を出す。
「どうしたの旦那」
「トイレが凄い」
トイレのドアを開けると白い綿みたいなものが降ってきた。
幸村は真顔で天井の換気口を指差した。そこには埃がびっしり垂れ下がっている
。
「これ酷いね。フロントに言おうか」
机にある電話でフロントに伝える。5分も経たずにホテルマンがチャイムを押した。
ホテルマンは少し年をとっていたが背筋はシャンとしていて、どことなく気品があった。
もしかしたらホテルマンの中でも上の人かもしれない。
「これは酷い。最悪だ」
ホテルマンはすぐに掃除機を持ってきて掃除を始めた。俺と旦那はテレビでも見ればいいのに何故か見守っていた。
「申しわけありませんでした」
「いえ、ありがとうございます」
トイレはすでに塵一つなく、埃などあるはずもなかった。
仕事を終えたホテルマンは掃除機を持って帰って行った。
「礼儀正しいかただったな」
「さすが。高いだけあるよ」
今夜はホテルに雷が落ちるかもしれない。まあ、そんなことは宿泊客には関係ないが。
幸村には先に風呂に入ってもらい、俺はテレビをつけ新聞を開いた。
「経済新聞ってテレビ欄ないの!?」
フロントには日経新聞もあった筈だ。テレビ欄はあっちだったか。
取りに行こうと思ってふと立ち止まる。
「一応を旦那に伝えておくか」
くるりと回って洗面所に向かう。シャワーの音が響いていた。
ドアを開けると綺麗に畳まれた幸村の着替えがあり、ガラスの奥にはシャワーを浴びている幸村がいた。
蒸気で曇ったガラスは幸村をなまめかしく映している。
襲いたい。だが今こんなところでそんなことをしてしまったら幸村は不機嫌になるに決まっているし、大理石に頭をぶつけたらそれどころではなくなってしまう。
「旦那、ちょっとフロント行ってくるから」
「わかった」
響く声が耳を犯す。理性が切れる前に場を離れた。
新聞を取りに行ったときに変わった外国人に会ったが特に気にならなかった。
つまらない事を気にしては今夜は楽しめない。
風呂に入ってようやく気付いたのだが、この部屋は新婚むけのスウィートルームらしい。
ガラスの壁にバスローブ、最上階の景色のいい部屋。下の階にはチャペルまである。
「ここまで揃ってたら仕方ないよね」
風呂から出たら抱きしめてベッドに押し倒そう。破廉恥だって?言い訳になんかならない。
そんな目論みはすぐに消えた。幸村がベッドでスヤスヤ寝ていたからだ。
「気持ち良さそうに眠っちゃって」
ここで起こすのも可哀想だ。
「お休み、旦那」
瞼にキスを落とす。幸村が微笑んだ気がした。