BASARA

□俺の夏休み
1ページ/3ページ

梅雨が明けたばかりの太陽が憎らしくも燦々と輝いている。
暑い。忍の術に暑さを感じない術はないのだろうか。
知っているのは平然としているように見える術だけ。少しも役に立たない。
氷をだせとは言わないから、せめて風を起こす術とか。生憎甲賀の術にはないの
だが。
縁側でぼーっとしていても暑さは変わらない。蚊が寄ってきたらパチンと殺す程
度だ。

「左助!」

暑苦しいのが来た。
だらだら汗をかいて手拭いで拭いている。見ているこっちも暑くなりそうだ。

「左助、涼しくなる術はやってくれないか?」
「あったらとっくに使ってるよ」
「え?左助は涼しそうではないか」
「そう見えるだけ」

なんだとか、そうかとか言って幸村は残念そうな顔をした。
仕方ないだろう、無いものは無いのだから。
幸村は隣に座り、足をブラブラさせる。

「暑い」
「そうだね」
「北は涼しいのだろうな」
「そうだね」
「今は政宗殿と同盟を結んでいるよな」
「そうだね」
「よし、奥州へ行ってくる!」
「そうだ……え!?」

奥州って言ったらあの龍の旦那のところだ。
同盟を結んでいるからとはいえタダではすまない。主に貞操の面で。

「絶対行っちゃ駄目!」
「別にいいだろう。文にも是非来てほしいとあったし」
「その是非ってところが危ないんだよ!」
隙あらば喰おうというのがバレバレだ。
ああ、俺様の可愛い可愛い旦那が汚される!

「とにかく、俺は行くからな!」
「俺様も行く!!」


旦那を一人にするなんて馬鹿のすることだ。



人様の家にお邪魔するときは何か手土産を持っていくのがよい。
例え憎らしく殺しても殺し足りない人だとしても礼儀は大事だ。

「やっぱり団子だよね〜」

旦那に毒されたのではない。ちなみに毒は仕込んでいない。
この暑さで長時間たった団子がどう変化するかは目に見えて分かる。
愛想笑いは大人の必須技術。伊達は知らないが右目は心得ているはずだ。

「旦那準備はできた?」
「ああ!」
「おやつは?」
「持った!」
「槍は?」
「持った!」
「ハンカチは?」
「忘れた!」

幸村はバタバタと走ってハンカチを取りに行った。
まだまだ旦那には俺様がついていないと。親みたいだと言われてもだ。
またバタバタと音がたち幸村が戻ってきた。

「準備ができたぞ左助!」
「じゃあ行こうか」
「待て、左助も忘れものはないか?」
「旦那と違って大丈夫」
「お金は?」
「ある」
「手土産は?」
「ある」
「武器は?」
「手裏剣に五色米、鉤爪に吹き矢、毒薬もあるよ」
「それではまるで敵陣に行くみたいではないか!」
「まあ害虫退治に」
「俺たちは遊びに行くのだぞ。戦に行くのではない!」

それにと幸村は続ける。

「政宗殿は虫ではなく龍だ」
「それは特に関係ないよ」

害虫ではなく害龍。しぶといのは変わらない。
やっぱり普通の団子よりも害虫退治の団子がよかった。一口でコロリと倒れる。
難点は幸村が間違えて食べてしまうことだ。1回危なかったことがある。
あのときは本当に怒った。躾と心配で。

「やっぱ団子は危ないか」
「団子!?」


この反応では絶対食べる。
育て方を少し間違えたかもしれない。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ