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□一人ではない
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狭い部屋。質素だが清潔感のある小さなベッド。小さな机。
辛うじてある窓もいい眺めとは言えない。

「ちょっと窮屈だな」

彼女がいてくれてよかった!こんな所に一人では退屈で仕方がない。
彼女は、レムは妖精だ。小さな体でも彼女は狭いと感じるのだろうか。

「少し埃っぽいわね。もっといい部屋はないのかしら」

彼女には埃のほうが気になるみたいだ。彼女の目にはどう映っているのか。

「一応、捕らわれている身だからね」
「だからって、もっといい部屋があるでしょ」

自分が捕らえた者に良い部屋を与えるなんてあまり聞いたことがない。
あるとすれば、野獣が美女に呪いを解いてもらった物語ぐらいか。
ガチャンとドアが開いた。

「おい、飯の時間だ」

フードを男がパンと湯気を立てているスープを持って部屋に入ってきた。
自分が気絶させられて、その隙に逃げられてしまうとは考えないのか。実際はしないが。
魔法使いの塔だから逃がさない自信があるのかもしれない。確かに魔法使いが大勢来たら太刀打ちできない。多勢に無勢だし。
気が付いたらフードの男はいなくなっていた。鍵はしっかりかかっている。

「美味しそうだね」
「でも、何だか見たことがないものが入ってるわ。毒かもしれない」
「いただきマス」
「食べるの!?」
「大丈夫だよ」

毒が入ってたって別に構わない。死んでも悔いはない。
だってシオンがいないこの世界に生きていても心が痛いだけ。
誰も悲しむ人はいない。私は一人。お父さんもお母さんもお兄ちゃんも兄さんもシオンも死んだ。
木のスプーンでスープを掬い、口に流した。
温かく野菜のほんのりとした甘みが美味しい。それだけ。
意識が遠くなったり、身体が痺れた感じはしない。

「毒は入ってないよ。レムも食べよう?」
「よかった……」
「レム?」
「ねぇ、無茶しないでね。あなたまで死んだらどうしようかと……」

レムはポロポロと涙を落とした。ボクのために??

「ボクは死なないよ。だってレムが傍にいてくれるんだから」



彼女がいてくれてよかった!
彼女がいるからボクは今、生きているんだ。

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