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□七色の向こう
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紅い夕暮れに鴉が泳いでいてとても綺麗だと有利は思う。
ここは都会よりも遅れていた。そしてここは都会が落としたモノがあった。

「綺麗だな……」
「そうでしょうゆーちゃん。今日からここで暮らすのよ」
「ごめん嫁さん。迷子になった」
渋谷家の車に非難の声が響いた。勝馬の地図はすでに勝利に握られている。

「だからカーナビ付けようって言ったのに」
「ううう」
「あっあそこに人がいる!」

次男坊有利は茶色の髪の青年を呼び止めた。なかなか人が良さそうだ。
勝馬は窓からぐいっと顔をだした。

「すみません、この場所を探しているんですけど……ってコンラッド!?」
「久しぶりだねショーマ」


コンラッドに案内され渋谷家はやっと目的地に着いた。

「引っ越し業者がまだ来てなくてよかった……」
「ショーマたちは今日からここに暮らすのか?」
「ああ。お、来た来た」

引っ越し業者が来たので勝馬はそっちへ向かう。
有利は一人になったコンラッドに話しかけた。

「案内してくれてありがとうございます」
「とんでもない。当然のことをしただけですよ。
確かユーリだったね。敬語なんて使わなくていいよ」

たわいのない話の間、引っ越しの作業は進んでいく。
コンラッドは荷物の入ったダンボールを持って新しい渋谷家に運んだ。


「ふぅっ。終わったー」
「じゃあ引っ越し蕎麦を食べましょ」
コンラッドさんも一緒にどう??

辺りはすでに暗くになっていた。
勿論最後まで手伝ったコンラッドには断る理由などなく喜んでその提案にのった。

「あら、ゆーちゃんは?」
「まだ2階にいますよ」
「蕎麦が伸びちゃうから呼ばないと。コンラッドさん悪いけど呼びに行ってくれないかしら?」

階段を上がり一番手前のドアを開ける。そこにはダンボールの山があり、それから僅かにある隙間に漆黒の髪の少年が窓の外を見ていた。
少年はこの世界にしっかりと存在していた。けれども窓の外から遠くにに行って
しまうような儚さがあった。
コンラッドはそっと気配を消して有利に近づいた。

「ユーリ」
「うわっコンラッド!ごめん呼びにきてくれたのか?」
「はい」

声をかけると儚さは一瞬で消え、ただ強い存在感があった。
どうして自分は彼を儚いと思ったのか。そんな疑問までうかんでしまう。
コンラッドは有利の視線の先を見た。

「……星を見ていたんですか??」

有利はうんと頷いた。

「都会じゃこんなに星は見えないから。綺麗だよな」
「今日からは毎晩見れますよ。
さ、蕎麦が伸びてしまう前に行きましょう」
「そうだな」

山のようなダンボールを背に彼らは扉から廊下に出た。
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