Other

□七色の向こう
2ページ/6ページ

ザァァァ ザァァァ ザァァァ ザァァァ ザァァァ ザァァァ
ザァァァ ザァァァ ザァァァ ザァァァ ザァァァ ザァァァ


朝からの雨で有利はうんざりしていた。今も彼は何もする気がおきないのかソファーに座ってテレビを見ていた。

……ちっとも面白くない………。退屈で退屈で仕方がない。西武ライオンズのビデオでも見ようか。

「ゆーちゃん、お客さんよ〜」
「こんにちは、ユーリ」
「コンラッド!!」

やっとこの退屈から逃れられる。
家には自分と母しかいなくてつまらないのだ。コンラッドがいるととても楽しい。

「ユーリ、退屈なら外に行きません??」
「外??」

今日は大雨で濡れてしまうこと間違いなしである。けれど家より面白いかもしれない。
有利はそう思った。

「どうですか??」
「楽しそうなんだけど、勝手に外出しちゃ駄目なんだよな」
「大丈夫。ちゃんと許可はとったよ」

いつの間にとったのだろうか。爽やかな笑顔を前に有利は軽く笑うしか出来なかった。


コンラッドは黒い傘を差し、有利はお気に入りの青いビニール傘を差した。

ゆっくりゆっくりと歩く。
水たまりを避けて歩くのは面倒くさい。しかしわざわざ靴を汚すのも気に食わない。
落ち着いて周りの景色を歩きながら見ることが出来なかった。

「コンラッドはいつもこの道を通ってるの??」
「前はよくこの道を歩いてたんだ。さあ見えてきたよ」

眼前には紫陽花が所狭しと咲いていた。蒼もあり紅もあり惑わすように咲く。
雨の雫が蜜が溢れ出たように滴った。

「凄い……こんなに沢山は初めて見た……」
「俺も初めて見たときはそんな気持ちだったよ」


「あれ、雨上がってる」
「虹が……」
「あっ本当だ!!」

ついてますね、と言ったコンラッドの表情が少し寂しそうに有利は見えた。
何が、誰が彼をそんな表情にさせるのかは有利には分からない。けれどそんな顔をさせたくはなかった。

「……小さいころ、小学生にもなってないころ、虹を渡ると幸せになれるとかお宝が埋まってるとか信じてたんだ」

有利は続ける。

「有り得ないよなそんなこと。
でもその頃は心の底から信じてて、勝利と一緒に探してたんだ」

勿論勝利は気付いていた。弟の夢への優しさだ。
兄弟の楽しい探検は今はもう出来ない。
有利はそっと左胸をおさえた。
「たまにふと思うんだ本当にあるんじゃないかって」

変だよな、と有利は言った。笑っても構わなかった。
コンラッドは微笑んだ。

「素敵な考えだと思いますよ。
俺も小さい頃よく考えた。」

懐かしい思い出はどんどん消えていく。虹の話は既にこの世にはいない人に教えてもらった。
楽しそうな表情だった。彼女も信じていたのだろう。
“虹の向こうには何があるのかしら”
好奇心の強かった彼女はきっと虹の向こうに行ったのだろう。

「虹の向こうには何があるのかな」

有利はそっと独り言のように呟いた。


きゅるるるる〜

「ごめん、おれだ」

コンラッドはくすっと笑った。

「もうすぐ昼食の時間ですね。そろそろ帰りましょうか」

差し出した手を握られてコンラッドは強く握り返した。
ちゃんと彼はここにいる。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ