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□七色の向こう
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ザァァァ ザァァァ ザァァァ ザァァァ ザァァァ ザァァァ
ザァァァ ザァァァ ザァァァ ザァァァ ザァァァ ザァァァ
朝からの雨で有利はうんざりしていた。今も彼は何もする気がおきないのかソファーに座ってテレビを見ていた。
……ちっとも面白くない………。退屈で退屈で仕方がない。西武ライオンズのビデオでも見ようか。
「ゆーちゃん、お客さんよ〜」
「こんにちは、ユーリ」
「コンラッド!!」
やっとこの退屈から逃れられる。
家には自分と母しかいなくてつまらないのだ。コンラッドがいるととても楽しい。
「ユーリ、退屈なら外に行きません??」
「外??」
今日は大雨で濡れてしまうこと間違いなしである。けれど家より面白いかもしれない。
有利はそう思った。
「どうですか??」
「楽しそうなんだけど、勝手に外出しちゃ駄目なんだよな」
「大丈夫。ちゃんと許可はとったよ」
いつの間にとったのだろうか。爽やかな笑顔を前に有利は軽く笑うしか出来なかった。
コンラッドは黒い傘を差し、有利はお気に入りの青いビニール傘を差した。
ゆっくりゆっくりと歩く。
水たまりを避けて歩くのは面倒くさい。しかしわざわざ靴を汚すのも気に食わない。
落ち着いて周りの景色を歩きながら見ることが出来なかった。
「コンラッドはいつもこの道を通ってるの??」
「前はよくこの道を歩いてたんだ。さあ見えてきたよ」
眼前には紫陽花が所狭しと咲いていた。蒼もあり紅もあり惑わすように咲く。
雨の雫が蜜が溢れ出たように滴った。
「凄い……こんなに沢山は初めて見た……」
「俺も初めて見たときはそんな気持ちだったよ」
「あれ、雨上がってる」
「虹が……」
「あっ本当だ!!」
ついてますね、と言ったコンラッドの表情が少し寂しそうに有利は見えた。
何が、誰が彼をそんな表情にさせるのかは有利には分からない。けれどそんな顔をさせたくはなかった。
「……小さいころ、小学生にもなってないころ、虹を渡ると幸せになれるとかお宝が埋まってるとか信じてたんだ」
有利は続ける。
「有り得ないよなそんなこと。
でもその頃は心の底から信じてて、勝利と一緒に探してたんだ」
勿論勝利は気付いていた。弟の夢への優しさだ。
兄弟の楽しい探検は今はもう出来ない。
有利はそっと左胸をおさえた。
「たまにふと思うんだ本当にあるんじゃないかって」
変だよな、と有利は言った。笑っても構わなかった。
コンラッドは微笑んだ。
「素敵な考えだと思いますよ。
俺も小さい頃よく考えた。」
懐かしい思い出はどんどん消えていく。虹の話は既にこの世にはいない人に教えてもらった。
楽しそうな表情だった。彼女も信じていたのだろう。
“虹の向こうには何があるのかしら”
好奇心の強かった彼女はきっと虹の向こうに行ったのだろう。
「虹の向こうには何があるのかな」
有利はそっと独り言のように呟いた。
きゅるるるる〜
「ごめん、おれだ」
コンラッドはくすっと笑った。
「もうすぐ昼食の時間ですね。そろそろ帰りましょうか」
差し出した手を握られてコンラッドは強く握り返した。
ちゃんと彼はここにいる。