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□薄くなれども消えはしない
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キィンキィンと剣が奏でる音。
この音楽が流れる限り彼らは生きているということだ。
コンラッドと兵士は剣を上げて下ろして、向かって引いての繰り返しだった。
兵士は新人ではないと思う。あの戦争を経験しているような気がする。
何となくだが、大切な誰かを守るような優しい目をしているのだ。
剣の演奏が終わり、有り難うございました、という声が聞こえた。


「お疲れ様」
「有り難うございます陛下」

タオルを渡されたコンラッドはさっと汗を拭いた。
汗をかいても爽やかな男。汗の臭いは知らない。
何故か白いタオルに赤がついていた。彼の手の甲に一筋の赤がでている。

「コンラッド怪我してる」
「ユーリ!」

コンラッドが言葉で制する。でもおれは伸ばす手を止めてやらない。
淡く暖かい光が生まれる。みるみるうちに傷が治った。
どうして治るのかおれには分からない。聞いても魂の資質とか何とか言われるだけだ。

「陛下、あんまり魔力を使わないで下さい」
「何で?便利なのに」
「あなたの身に何かあっては困ります」

お礼くらい言ってくれたっていいじゃないか。お礼目的じゃないけどさ。
それとも大した傷じゃないというのか。おれのときは手厚いくせに。

「使ってもらいたくなかったら怪我すんなよ」
「それは善処します」
「善処じゃなくて絶対!」

コンラッドはにこりと微笑むがけして、はい、とは言わなかった。

白いタオルに赤い血がついている。

傷は消えても血を流したことは変わらない。

水に入れてこする。薄らと赤が残っていた。

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