現在

□さくらんぼ。
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「え〜?!どうやってんのそれ?!」


「簡単だってば、ママもやってみなよ。」


「ん〜。んん〜。無理〜。」


何やらリビングが騒がしい。


大方下らん話でもしているのだろうと眉根を寄せ室内に足を踏み入れると、何とも甘い香りが鼻腔をくすぐった。


「それは何だ。」


カウンターキッチンの向こう側


ガラステーブルの上で、紅い小さな実が何とも涼しげな器に盛られている。


思わず興味をそそられ問いかけると、意味深な笑みを浮かべてブルマが言った。


「さくらんぼよ。甘くておいしいの。ベジータも食べてみる?あ、種は出してね。茎は・・・結ぶのが礼儀なの。」


「結ぶだと?」


「こうだよ。こう。」


再度問いかけると、吹き出すのを必死に堪えるトランクスが“結ぶ”の実演をしてみせた。


どうやら茎の部分を口に含み、舌先と上顎の動きのみで結ぶらしい。


「下らん。」


大方妙な事を企んでいるのだろう。


意味深に微笑むブルマと、笑うのを堪えるトランクス


二人を鋭く一瞥したベジータは、さくらんぼを全て丸呑みしてしまった。

「あー!種!」


「パパ!お腹壊しちゃうよ!」


毒でも飲んだかのように慌てふためく二人。


表情と反応が瓜二つだったのに、ベジータは思わず喉を鳴らして笑った。

「へ、平気なの?」


種を飲んで気でも触れたか


滅多には笑わない夫に恐る恐るブルマは問いかける。


すると、オデコの部分を軽く人差し指で弾かれ再度笑われた。


「馬鹿かお前は。サイヤの胃袋がこれしきに異常をきたす筈なかろう。」


笑うと言うよりは嘲笑に近い。


なる程、夫らしいと納得したのかブルマも満面の笑みを向け問いかけた。

「さくらんぼ。美味しかった?」


「悪くない…がエネルギーを蓄積するには向かんな。」


「ぷぷっ!当然よ、デザートなんだもん。甘味を楽しめればそれでいいの!」

「理解出来ん。」


他愛ない会話。
それを交わす二人は、トランクスから見れば至極幸せそうである。


(パパも見せつけるよな〜。)


普段であれば他人に肌に触れさせないは愚か、自らのテリトリーにすら踏み入らせない。


それは息子であるトランクスも同じ


トレーニングを差し引けば一定の距離を保つのが常だ。


それを先ほどは自らブルマのオデコを弾いた。


(アツアツだもんな〜。参っちゃうよ。)


今度は、それとなしにブルマが腕を組む


それを振り払わないベジータ。


雰囲気を察したのか、トランクスはそくささとリビングを後にした。


「そうそう。さっきの茎ね?結べればキスが上手いって証拠だったのよ。」


トランクスが居なくなったのを良いことに、恥ずかしげもなくブルマが言ってのける。


下らん。と一言呻いたベジータは、これがか?と付け加えると口元から何かを取り出した。


それは…


「嘘…。出来てるじゃない…!」


さくらんぼの茎が3つ。

それぞれが、しっかりと結ばれている。


ポンと手のひらに置かれたのを感心しきりに眺めるブルマに、ベジータはしてやったりな表情を浮かべて言った。


「茎よりも確かな方法があるぞ。」


小さな顎を掴むと、極僅かな力で引き寄せる。


触れるか触れないかの距離まで艶やかな唇に近づいた


その時


「はぁい!ブルマさん!さくらんぼ美味しかったかしら〜?」


何とも絶妙なタイミングで、夫人がリビングに現れた。


慌てて離れ苦笑いするブルマとは相反して、ベジータは小さく舌打ちをする。


「また夜…ね?」


夫人に聞こえないよう、耳打ちをしたブルマはすり抜けるようにリビングを後にした。


今ごろは耳まで真っ赤になって夫人の質問攻めにあってるだろう


その表情を思い浮かべて、ほくそ笑みながら。








end

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