現在

□ふと思う事。
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「ねぇ〜ベジータ。これ持ってよこれ。」


僅かな秋風も心地好い昼下がり。


西の都の繁華街


その一角で、およそ場に似つかわしくない男は憮然とした表情で大きなショッピングバッグを幾つも抱えていた。


どれもこれも有名なブランド名のロゴが入ったバッグに、これでもかと衣服が詰め込まれている。


「いい加減にしろ…!まだ買う気でいやがるのか…!」


カジュアルな七分丈のジャケットにジーンズ。


均整の取れた体つき故、行き交う女性から視線を浴びていたベジータは、それを気にするでもなく怒号を張り上げた。


重力室を撤去、飯は抜き、夜は別々だと言われ仕方なしに付き合っていた買い物も、三時間以上連れ回され最早限界である。


終わるまでは飯抜きと言われたのを忠実に従っていた所為で、空腹も手伝い苛々は最高潮へと達していた。

「あーん。待ってよー。これだけ済ませたらお昼にするからー。」


目が眩む程の装飾がなされたジュエリーを、あぁでもないこうでもないと選んでいたブルマは慌てて会計を済ませ店から出てきた。


「すぐ食えるんだろうな?」

この上なくご機嫌なブルマに腕を絡めとられ、ベジータは眉根を寄せ問いただ
す。


これ以上待たされるのなら家に戻り、調理ロボを起動させた方がまだ早い。


返答次第では、即座に飛び立とうと腹を据える最中、ブルマは意味深な笑みを此方に向け言った。


「大丈夫よ。ちゃーんと予約して置いたから!あんたじゃ店の食材食い尽くしかねないものね。」


「ふん。客の要望に答えられん店等、潰れて正解だろうな。」


いつだったか予約もなしに店に行き、全メニューを食い付くした所で店長が泣き言を漏らした事があった。

以降、その店は食材確保に方々を駆け回ざるを得なくなり1日店終いを余儀なくされ挙げ句、その事態がキッカケで廃業まで追い込まれたのだ。


以降、密やかに男がブラックリストに載ったのはブルマのみぞ知る事実なのだが。


「着いたわ。ここよ…!」


カプセルコーポの権限まで持ち出して予約を取り付けた店にと来たブルマは、手筈通りに店の奥にと進んだ。


一般席とは違い、一段敷居が高い個室。


常連客のみが入れるのを許される、言わばVIP席である。


そこに腰を下ろしたと同時、まだ頼んでもいないのにボーイが料理を運んで来た。


イタリアンレストランだと言うのに、和洋折衷の料理の品々である。


「さぁ〜食べましょ!私もお腹ペコペコだわ〜。」


何か裏があるのかと不可解そうな表情を浮かべるベジータも空腹には勝てず、料理の品々を胃袋にと納めていった。


「あ。ミネラルウォーターおかわりくれる?私は珈琲ね。」


一時間程した後


ブルマからの問いかけに“あぁ”とか“悪くない”とかの返答を返す以外、無言のままで食べ進めたベジータは、漸く腹が膨れたのかナプキンで口元を拭った。

それをいち早く察したブルマが手早くボーイにと注文する。


恭しく一礼した後、部屋を出ていったのを視線で送ったブルマは何とも意味深な表情でベジータの顔を覗き込んだ。


「その顔をどうにかしろ気味が悪い。」


「あら失礼ね。美しいって言われた事はあるけど、気味が悪いだなんて言われたの初めてよ。」


「今までの奴等が節穴だったんだろうぜ。」


頬を僅かに膨らますブルマに、ベジータはケッと悪態を吐く。


「何よぉ。ただ感慨に浸ってただけじゃない。」


「感慨だと?」


今しがた運ばれてきた珈琲を啜るブルマに、ベジータが眉根を寄せ問いかけた。


「こうして普通にデートしたり、買い物行ったり食事したりって出来ないって思ってたんだもの。ほーんと波瀾万丈だったでしょ?それを乗り越えて今があるんだって思ったら不思議な感覚になったのよ。」

ブルマの言う、デートやら買い物やらが出来ないのを嘆く心境は理解出来ない。

しかし“不思議な感覚”の部分は確かに同意見だとベジータは僅かに目を細めた。


個室の窓から広がる都会の喧騒。


皆、足早にと行き交う最中

談笑をかわす一組の家族が視線の端に写り込んだ。


平和ボケした至極幸せそうな表情。


かつては殺略者として、この地に降り立った己がいつの間にか目の前の親子と同じ、家族を持ち得た。


幼き頃、あれ程辟易していた馴れ合いも悪くはないと思う自分。


否。心地よいのか。


「ねぇ。デザート頼むわよね?あ!イチゴパフェ2つお願いね!」


人の返答も聞かず、手早くボーイに注文をする


届いたデザートを至極幸せそうに頬張る。


その一挙一動に、何故か胸中に流れ込む暖かなもの。


それを“幸せ”だと人は言うのだろうか。


「おい。そろそろ白状したらどうだ?」


「へ?何が?」


「とぼけるな。イタリアンレストランだと言うのに、和洋折衷の料理が出てくるカラクリだ。」


生クリームとコーンフレークを食べ尽くし
最後にイチゴを残す、お決まりの食べ方。


男がブラックリストに載ったのを言うべきかどうか・・・


料理人が足らないのを危惧して、有名シェフまでヘッドハンティングした経緯を伝えるべきかどうか・・・


デザートスプーンをパフェグラスの底でイチゴ共々カラカラさせて、ブルマは考えあぐねる。


・・・と。


「言わんのなら食うぞ?」


「あー!!!!」


一体、いつの間に奪われたのか。


目にも止まらぬ早さでブルマのグラスからイチゴを奪ったベジータは、不適な笑みを浮かべ言った。


「ちょっとぉ!!!私がイチゴ大好きなの知ってるでしょぉ!!!」


「ふん。好物を最後に残すとは、ガキ以下だな。」


「なによぉ!!あんただって、大好きなトマトはサラダの最後にしてるの知ってるんだからね!」


「なっ・・・!!てめぇいつの間に・・・!」








「あ・・・あのぉ〜。あそこの個室って、どなたがご利用されているのでしょうか?随分、お騒がしいようですが・・・。VIPの方なんですよね?」

ここの個室を貸し切る事が出来るのは、そうとうな財力の持ち主である証。


それを知っているボーイは、不可解そうに店長にと耳打ちする。


「カプセルコーポのご令嬢だよ。失礼のないようにしろ。」


「ええっつ!!あのカプセルコーポレーションですかっつ?!」


そっと、耳打ちして怒号が飛び交う個室にと視線を配る


店長が実の所、もう少し静かにしてくれないか。と嘆いたとか いないとか。








end

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