現在

□漆黒の少年。
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「あ・・・。父さん・・・。」


リビングのソファーにと腰を下ろし、つかの間の休憩にと珈琲をすすっていたトランクスがふと顔を上げた。


その正面、いつの間に居たのだろう、ベジータは相変わらず厳しい視線にて息子を見下ろす。


「珈琲飲む?」


「あぁ。」


幼い頃に抱いた強い尊敬の念は、今でもって変わる事が無い。


衰えを全く見せない青年の様な顔立ちに、隅々まで鍛え抜かれた体。


大人になればいずれは縮まると思っていた、その全てが今もまだ遙か遠くにとある。


トランクスから受け取った珈琲をブラックのままに流下する。
これもまた勝てない物の一つ。


ミルクに砂糖二つ入れてかき混ぜて、2杯目にと手を付けようとしたトランクスの手はぴたりと止まった。


「母さんなら出かけたよ。」


「・・・誰も聞いていないだろ。」


「ふーん・・・。」


ふいと顔を逸らせるベジータに、トランクスは小さく笑う。
本当はいつだって、その微弱な気を探って神経を尖らせている事を知っているからだ。


「…気を感じんぞ。」


「そりゃそうだよ。この世界には居ないんだからさ。」


本当は言いたくてウズウズしているのを我慢して、トランクスは勿体ぶった。


と瞬時。
その襟首がグイと掴まれる。


動体視力に置き、絶対の自信を持っているトランクスですら、その動きは追えなかった。


漆黒の目は真っ直ぐにこちらを見据えてくる。
一点の曇りも無い黒は、トランクスを恐怖にと晒すに充分すぎる程であった。


「教えた方が無難だぞ?そうは思わんか?」


「おっ、教えるよっ!」


ブルマが言っていたセリフそのままにベジータは呻く。


が、地獄の底から響くかの様な暗く冷たい声には、流石のトランクスも白旗を上げざるを得なかった。


(ちぇっ。もう少しからかってやろうと思ったのにな〜。)


襟首が解放されたと同時、心の中で舌を打つ。
諦めの悪さと切り替えの速さはブルマ譲りらしい。


そのトランクスは、ベジータの神経を逆なでない様に、先ほど起きた事態を詳細に告げた。
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