現在
□漆黒の少年。
6ページ/52ページ
「悪りぃ悪りぃ。すっ飛ばし過ぎたみたいだなぁ。」
「っつ!!きゃあああっつ!!!!!」
慌てて腕を放す。
「へぇー。中々いい女じゃねぇか。」
不躾な口調で、まるでブルマを舐め回す様な目線を投げかけてくる。
その男は…。
「ら…ラデイッツ。」
ブルマは卒倒しそうになるのを寸での所で抑えた。
今、卒倒してしまえば、それこそ何をされるか分かったものでは無い。
腰まである長い黒髪。
ベジータとは違う、どこか野蛮めいた瞳と吊り上げられた口元。
その恐ろしさと傍若無人さは、かつて一度目にしただけではあるが、ブルマを芯から震え上がらせるには充分すぎる程の覇気を宿していた。
「ほーう。俺の名前を知っているか。ただの捕虜じゃなさそうだな。」
「!!!」
ラデイッツの黒の瞳は、何もかもを見透かすかの様な目線で強くブルマを見据えてくる。
(まっ、まずいわっ。何とかここを切り抜けなきゃ。)
慌てて目線を逸らせて、ブルマは今考えられる嘘を必死に頭の中で巡らせた。
「わっ、私。ベジータ…様の、め、妾よっ!アナタの事、知ってて当然でしょ?」
言ったと同時。
激しい後悔がブルマを襲った。
妾などと、信じて貰える筈も無い。
慌てていて重大な事を忘れていたのだ。
ベジータは今、八歳の少年。
そして自分は50間近の年増女であると言う事を…。
(教育係りか、養母とでも言えば良かったんだわ…。)
今更後悔した所で全て遅し。
完全なるスパイだとして獄中にと投じられるか、もしくは…。
(…死?かしら?)
眉間に眉を寄せて怪訝そうにこちらを見据えるラデイッツに、ブルマは引きつった笑顔を浮かべた。
瞬間。
ブルマの眼前にとラデイッツの腕が差し出される。
「へぇー。ベジータのヤツも中々やるじゃねぇか。まさか年上好きとは知らなかったがな…。」
「へ?」
呆気に取られながらも、その上にと手を乗せた…。次の瞬間。
ブルマの体は軽々とラデイッツに抱えられて宙を浮いていた。
(わ、私ってば、まだイケるって事かしら?)
随分と年下に見られたのだろうか…。
今まで思たかった体が嘘の様に空を舞う。
ブルマは、その頬をパチパチと両手で叩いて、ニンマリとほくそ笑んだ。
「まぁ、オメェみてぇなガキんちょは、ベジータが似合いだな。」
「が、ガキんちょ?」
空をゆっくり飛行する最中、ラデイッツが有り得ない言葉をブルマにと投げかけて来た。
「ガキだよ。ガキ。俺は18からしか女と認めねぇんだよ。オメェは16歳かそこらだろうが。」
「は?あんたねぇ、若く見てくれるのは嬉しいけど、あまりにも若いと嘘くさい…。」
先ほどの恐怖はどこへやら。
若く見られて嬉しくならない女は居ない…それでもあまりに突拍子の無い言い草に食ってかかったその瞬間。
ラデイッツが左眼にと装着しているスカウターにと自身の顔が映り込んだ。
「へ?」
思わずマジマジと見据える先…。
「嘘ー。」
ブルマの瞳はキラキラと輝き出した。