小説
□逃げられない。(7p)
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また、出てきた…アノ人が。
最近毎日のように夢に出てくるのだ。いや、現れると言った方が正しいのかも知れない。
俺の苦手な向かいの主人、ユーゼフ様。
しかし昨夜の彼はいつもと感じが違ったように思う。
いつになく真剣で、それでいて何かを諦めているような顔で。
「君に逃げられることがこんなに辛いとは思ってなかったよ。」
なんて柄でもない事を口にした。
彼の言葉は俺を束縛し、目を逸らすことすら出来なかった。
この人にこんなこと言わせてるのは俺?何故俺なんだ、どう返せばいいんだ?
何も分からない自分を見て彼は苦笑いを浮かべた。
そこで現実に戻ったのだ。
「……何だってんだ…」
消えそうな記憶をもう一度頭に描き、肺の底から重い息を吐き出す。