Milky load.

□]Xselection
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遠い昔。
傷だらけの身体と足手まとい、そこかしこで聞こえる爆音と怒声。
追手を撒くために鉄火場に紛れ込めたのはいいが、下手をすれば死ぬ。
そう、自分は下手をしたのだ。
運に見下されたというべきか。
逃げる内に両軍が衝突する、もっとも地獄に近い場所に逃げ込んでしまった。
崩れた民家に身を忍ばせているが、いつ爆弾が落ちるかわからず、誰かに見つかるかもしれない。
逃げ出したその瞬間から、敵も味方も皆敵だ。
死のテンカウントが、確かに聞こえる。
腕の中で儚い呼吸をしている同じ顔の生き物にも聞こえているのだろう。
病的に白く、痩せた頬を涙が伝った。

「…何故、連れてきてしまったのか。」

一度は殺そうとした自分の分身。
皮肉にも死神とは対の名が与えられたアズラエル。
最後の審判を任せるには病弱で、微かに見せた能力も無に等しい、魔法で作り出されただけが珍しいただの人型の生き物だ。
製造者の理想から完全に外れ他者に同情し、製造目的の為に無理矢理駆り出される戦場では生き残るのがやっとの、出来損ない。
故障ばかりで碌に武勇もないどころか戦場に出る事も無かった。
類稀なる能力と、戦闘技術と、戦術指揮の頭脳を持った自分とは似ても似つかない。
ただ、寂しそうな横顔だけが ぞっ とする程自分に似ていた。

「はあ。俺も年貢の納め時か。」

政府が公式に行った魔女狩りに遭い、家族を奪われた憎しみが掴んで離さなかった選択肢が、自分を殺す事になるとは思いもしなかった。
自分の力があれば何からも負けはしないと思い込んでいたが、守る物があるとこうも見動きが取れないとは良い勉強になった。

「折角だ。おまえを弟だと思ってやる。一緒に死ね。」

「はい、レッド・グリム様。」

銃声、爆音、悲鳴。
怒声と足音が壁一枚隔てた世界で次から次へと過ぎて行く。
鎮魂歌にしては喧しいそれが、いつこちらに向くかわからない。
寂しさを埋める為に腕の中の弟を抱き締めた。
久し振りに感じた温もりは儚過ぎて、自分を温めてはくれない。
それでも抱き締めずにはいられない。
もう何も見たくなくて、目を閉じて、もう何も考えたくはないから、自分ではない ひと が与えてくれる温もりだけに集中した。

「え?」

しかし、目を閉じていたのに、昔絵本で読んだ、天使が降臨する光景が急に浮かんだ。

 

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