Milky load.

□]Xselection
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舞い降りた天使の翼に包まれた様な、今まで一度も感じた事がない温もりが頭を抱いている。
柔らかい手、柔らかい身体、柔らかい匂い。
閉じていた目をゆっくり開ければ、そこには小さくて大きな空が広がっていた。

「おまえは?」

戦火で焼け焦げた街の空では滅多に見る事が出来ない、高く澄んだ空。
一度もこの目で見た事はないが、透明度の高い海はこんな色をしている筈だ。
心配そうに覗き込む幼い少年の瞳は、一瞬、現状を忘れてしまう程美しい色をしていた。
少年が首を振る。
揺れて目を撫で艶やかに輝く髪は、風に靡く麦穂の様な金色だ。
ここまで見事な金髪は、滅多にお目にかかれない。
睫毛も金色に輝き、青い目を引き立たせている。
少年は、また、首を振った。
女の子の様な可愛い顔立ちをしているが、服装で男の子だとかろうじて判断出来る。
それも、とても身分の良い、愛された子どもだ。

「おまえの様なガキが、何故、こんな所に居る?」

話しかけても首を傾げられただけで終わった。
それはそうだ。
この少年は一人で歩ける様になったばかりの、言葉も話せない年頃だ。

「?」

少年がまた首を振る。
よくわからないので首を傾げたら、その小さな 両手で頬を包まれた。

「ッ!?」

何がしたいのかわからなくて ぼうっ としていたら、小さな顔が近づいて、小さな唇が可愛らしく尖って、目元に吸いついた。
ちゅう。
音を立てて涙を吸われる。
その時初めて、自分が泣いているのだと気付いた。
少年が、首を振る理由も。
言葉を持たない少年の「泣かないで」。
忌み嫌われる呪いの目から垂れる涙を吸い取り、少年は隣に座った。
血の滲むアズラエルの頭も心配そうに撫で、しかし「大丈夫だ」と言わんばかりに穏やかに笑いかけた。

「おまえの様な良い子、見た事が無い。名前は?」

小さな、綺麗な色の頭を撫でる。
我ながらぎこちないものだったが、少年はそれはそれは嬉しそうに笑い、見惚れてしまう程愛らしい笑顔のまま小さな口を開いた。

「ソナ。」

「そな?」

少年が頷く。
身形の良い少年が、この国で言う不良である筈が無い。
ならばその様に短い名前はあり得ず、愛称だと容易にわかる。
その短い言葉は、俗に言う魔女の一族では太陽を意味していた。

「良い名前だ。よく似合う。」

そろそろしつこいかと、撫でていた手を離した。
その手を少年は両手で包み、また可愛らしく笑った。
きゅう と、力強く握られた手から伝わる温もりに、また涙が零れた。
心配そうに眉毛を下げる太陽に、笑って見せる。

「大丈夫。これは悲しくて泣いているんじゃない。嬉しくて泣いているんだ。」

言葉の通じないソナはまた、心配して目元にキスをしてくれた。
その身体を片手で抱き寄せ、抱き締める。
小さな身体に顔を押し付けて、小さな身体に優しく抱き締められて、今までずっと堪えていた悲しみが、小さな身体に慰められていく。
久し振りにその存在を思い出して神に祈った。
どうかこの子がこんな薄汚い所で野垂れ死なない様、守って欲しい。
その願いは神には届かないと知りながら、祈り続けた。

 

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