Milky load.

□]Xselection
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リーダーは驚いて落としてしまった槍を恨めしげに見た。

「畜生、毎度毎度情報が少な過ぎるんだよ。」

後ろから抱き締めて「可愛い」だの「小さい」だの「やっぱり可愛い」だの、喜ぶ変態男の腕に爪を立てる。
男は一見ラドクリフよりも少し年下に見えるが、背は高く、ラドクリフの昔話では確か一つ年上だと聞いた覚えがある。

「今回の敵は反政府組織で、小狡賢い馬鹿はあんただったのか。」

ジョエルは痛くも痒くもなく、子犬に甘噛みされと更に喜び、リーダーの頭に頬を擦り寄せた。
リーダーは当然面白くないし、小さな抵抗では相手を興奮させるだけなので手を離した。
「残念」とジョエルは唇を尖らせたが、大人しくなったから「これはこれで良いか」とまた笑顔になる。

「初めましてなのに、どうしてソナ君は俺を知ってるのかな?ラドクリフ君が俺の事を話し、」

「初めましてなのに馴れ馴れしいな、あんた。」

“ラドクリフ君が俺の事を思い出し話したんだったら嬉しいな、照れちゃうな♪”
と続けられる筈のあり得ない軽口を、リーダーは睨みを利かせて遮った。
ジョエルは子犬の強気に軽く驚いて見せる。
リーダーは、表情の乏しい自分が出来る最大級の馬鹿にした様な目でジョエルを見上げた。

「ラドクリフをあんたから取り上げた俺が憎くて憎くて、でも取り返せなくて。指咥えて眺めてる間に立派に育った俺が魅力的になったのか?」

「え、君はとても魅力的ではあるけど、…何。今の笑う所?君の何処が立派なの?まだまだ子犬じゃん。」

頭に来たリーダーは赤面するが、ジョエルは馬鹿にするでもなく楽しそうに くすくす 笑った。
ジョエルはラドクリフに聞いていた最低最悪の人間なのに、今この瞬間はジョエルから害意や悪意が全く感じられない。

「(調子が狂う。頭を使うのは苦手だ。こいつと長く話していても良い事は無い。)」

リーダーは心の中で決意し、銃を抜き、後ろに構えた。
相手が自分の背中を取れるような人間でも構わない。
動けば殺されるかもしれないが、何もしなければ相手の思い通りだ。
奇跡も起こらない。
リーダーが感じたジョエルとの格の違いは、百戦錬磨の猟犬が奇跡を信じる位にあった。

「闘うの?止めといた方が良いよって、ラドクリフ君に言われなかった?」

「なぜ俺がラドクリフの言う事を聞かなくちゃいけない?俺は主人であいつは執事だ。言う事を聞くのはラドクリフだろう?」

「捨てたのに?今は君の上官なのに?」

揺さ振りをかけたつもりのジョエルは面喰らう。
リーダーの表情もだが、目も微動だにしなかった。
涼しい色の目は、淡々とジョエルの金の瞳を見上げる。

「ああ、確かに俺はラドクリフを捨てた。だが、おまえの話を聞いたのは捨てる前だ。上官となった今、命令されたら逃げるかもしれないし、不良らしくただ椅子に座ってるだけで毎回笑顔で死んで来いと言うだけの上官の命令に従わず、いい加減嫌気が差した人生を終わらせる為に勝てない敵に果敢に挑むかもしれない。」

「教育が行き届いてるねえ。」

ジョエルはその場に居ない上官を憐れむ様に笑った。
ジョエルがラドクリフを思い浮かべた事を察したリーダーは、それすら許さないと引き金に掛けた指に力を入れた。
格の違いに油断している隙を狙った筈で、早撃ちには自信があり、またこの距離だったのに、引く前に銃を撫でられ安全装置を掛けられた。
唇を噛みしめ悔しがるリーダーをジョエルは笑い、リーダーの手から銃を投げ捨てた。
余裕が有り余る程、格の違いがあるのだ。
絶望はしない。
初めからわかっていた事だ。
ジョエルはリーダーを正面から抱き締め直して、小さな少年に小雨の様に言葉を掛ける。

「ねえ。捨てたなら返してよ。てゆうか拾って良い?」

「ヤダね。俺が捨てたのはおまえにやる為じゃない。」

「我儘だなあ。」

「教育が行き届いてるからな。」

小さな鼻で笑うリーダーに、ジョエルは腕の力を強くする。
一瞬強張った細い体を撫で、その動きを微妙に変化させる。

 

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