曖昧な僕ら。
□どう足掻いても
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「Aー、いい加減起きてよー」
「……」
どうも、Bです。現在時刻は10時28分。
"朝"と言うには遅すぎるし、"昼"と言うには早すぎるようなそんな時間。
僕は毎日7時半頃起きてシャワーを浴びた後、朝食を作って食べて片付けをしてから新聞に目を通すのが習慣です。
読み終わったら掃除をして、それから洗濯を始めるんだけど。
「もー、聞こえてんでしょ?いいから起きて。洗濯できないから!今日中に乾かなくなる」
「…っせーなぁ、人がせっかく気持ち良く寝てたのによー」
「あんた一体何時間寝たと思ってんの?いい年こいたオッサンが10時間睡眠とか寝すぎ。ほら早く脱いで」
なかなか起き上がろうとしないAから布団を剥いで奪った。
「いやーん、Bのえっちー」
「はいはい、さっさと脱ぐ」
「つれねーなぁ、ちょっとはノれよ」
「今日は出掛けるんでしょ。まだ洗濯しなきゃなんないし忙しいの。Aは朝飯食ってシャワー浴びて支度して!」
文句を垂れつつようやく起き上がったAのTシャツを無理矢理脱がし、言いたいことだけ吐いて部屋から出た。
全く、Aのだらしなさはピカ一だ。自慢にもならない。
僕が身の回りを世話してやんなきゃ、そりゃもうダメダメ人間で。
Aから剥いできたTシャツを洗濯機に放り込み、洗剤と柔軟剤を入れて蓋を閉めスイッチを押す。
間もなくして水道から水が注入され、洗濯が始まったのを確認するとリビングへ戻った。
「…っくしょい!」
「……あのさ、服着たら?」
「いいんだよ、風呂入るし」
リビングに戻るなり目に付いた光景に深く溜め息を吐く。
何してんだかこの変態は。
Aとは長い付き合いだが、未だバカなのか、わざとなのかがわからない。
ただ、普通でないことは嫌と言うほどよくわかったけど。
Aに対して常識や一般論をぶつけても、それは何の意味も持たない。
Aにとっては自分が全て。だから他人の意見なんてハナから聞いちゃいない。
それなのに、全く。
この変態の考えることは理解に苦しむ。
「じゃあ飯は後にして先にシャワー行けばいいだけじゃん」
「飯食えってお前が言ったんだろうが」
「…何でそういう無駄なことだけ人の意見を受け入れるの?あんたやっぱりアホなの?アホなんだね?」
本当Aはアホだ。絶対アホだ。アホと変態以外の何者でもない。
だって。僕が言ったからってパンツ一丁で飯食う奴がいるか?
あ、ここにいるな。
そりゃあ寝起きに裸で飯食えばくしゃみも出るだろ。
「服着ろ」って言っても、きっとそれは聞かないんだろうし。
ていうか僕は先に飯食えだなんて言ってないんだけど、なんでバカ正直に言った順番守ってんだよ。あ、アホだからか。
「おいB、コーヒーくれ」
「……ったく、」
Aが裸でいることに対してはこれ以上突っ込まないことにした。
下手に突っ込むと、「そんなに見るなよえっち」とか言われるに決まってる。
キッチンに行きコーヒーをカップに注ぐ。
砂糖はティースプーン山盛り3杯。それにミルクも入れて。……甘っ。
僕は断然ブラック派なので、このコーヒーの甘さが想像できない。多分きっと相当甘い。
想像してみたら何だか気分がよろしくない。いや、それは既にキッチンの空気が甘ったるい所為だ。
Aはいかにもブラックを好みそうなオッサン顔のくせに、ブラックでは飲めない。それも結構な甘党。
初めてAが甘党だと知ったとき、それはもう腹が捩れるほど笑った。似合わなさ過ぎる。
その後僕が酷い目に遭わされたのは言うまでもない。
「どーぞ」
「おう。…あー、やっぱコーヒーは甘いのに限るな」
「僕はそう思わないけど」
そう返事をしつつ、"甘いものが好き"なんていい年こいた変態に「可愛いとこもあったんだ」とか、ほんの一瞬でも思ってしまった僕は死ねばいい。
公開処刑だちくしょう。
「さて、シャワー浴びてくるか。…ぶぇっくしょい!」
「いってら」
替えのパンツをAに渡して冷ややかな眼差しで送り出し、僕は食器の片付けに取り掛かる。
綺麗に洗って拭いた皿を棚に閉まって。
ふと時計を見やれば、既に時刻は12時33分。
あぁ、もうお昼じゃないか。
…でも、Aは食べたばっかりだしなあ。